日本消化器内視鏡学会甲信越支部

55.放射線性腸炎に併発した小腸との瘻孔を伴う直腸癌の1例

新潟県厚生連長岡中央綜合病院 消化器病センター 外科
川原聖佳子、西村  淳、新国 恵也

症例は80代女性。25年前に子宮頚癌で子宮全摘後、照射を1ヶ月行った既往があった(詳細不明)。約9ヶ月前から食欲不振、腹部膨満感、4ヶ月前から貧血も認め、消化管精査を勧められていたが、本人が検査を拒否していた。2ヶ月前から水様性下痢による肛門周囲皮膚炎が生じ、その痛みのため動くことが困難となり入院となった。入院時検査所見では低栄養、貧血を認めた。大腸内視鏡検査では[RS]に3型の進行癌を認め、scopeは通過しなかった。また[Rb]の粘膜は浮腫状で直腸炎の所見であった。CTでは右肺S8に2個の小結節を認め、転移と診断した。注腸では[RS]に4.6cm長の全周性狭窄があり、少なくとも2カ所で回腸と瘻孔を形成していた。直腸癌[RS]cSI(回腸)cN1cH0cP0sM1(肺  LM1)cStage  IVの診断で開腹手術を行った。照射の影響で骨盤の開きが悪く、周囲腹膜や腸間膜は硬くなっており、骨盤腔内に落ち込んだ回腸の漿膜は白色調で浮腫を伴っていた。回腸との瘻孔は3カ所に認めた。手術はHartmann手術(直腸切除、S状結腸人工肛門造設)、D2、回腸部分合併切除を施行した。切除標本の病理組織学的検査の結果は[RSRaS]3型  tub1,  pSEI(回腸),  ly0,  v2,  pN2, pRM0で総合的進行度はpSEI(腸)pN2sH0sP0sM1(肺)fStageIVであった。非癌部にdysplasiaは認められなかったが、粘膜下層の血管壁にフィブリノイド変性が認められ、放射線性腸炎の所見であった。術後経過は概ね良好で、肛門周囲皮膚炎は治癒し、術後第19病日に退院した。術後2ヶ月のCTで多発肝肺転移を来しているが、高齢を理由に無治療を希望され、外来経過観察中である。照射後の晩期合併症としての悪性腫瘍発生は、頻度としては多く無いものの、しばしば報告されており、長期にわたる経過観察が必要であると思われた。