症例は40歳代女性。フィリピン人。2010年大動脈炎症候群に対しBentall手術施行後、当院血管外科通院していた。2012年4月フィリピンにて腹痛、下痢、悪心、発熱あり、近医受診。腹部エコーで腹水を指摘された。4月11日血管外科定期受診時、腹部膨満とCRP5.1と異常値を認めた。腹部造影CTでは、著明な腹水と、脂肪、石灰化を伴う両側卵巣腫瘤、ダグラス窩腹膜の不整を認めた。腹水細胞診はclass IIであったが血液検査の腫瘍マーカー(CA19-9:42.5U/ml、CA125:94U/ml)も高値を認めており、奇形腫、腹膜播種が疑われた。6月18日試験開腹手術施行。淡黄色腹水多量、腸管、腹膜の表面はφ数mm程度の小結節が多数あり、病理組織診断は結核性卵管炎、腹膜炎、成熟嚢胞奇形腫であった。ツベルクリン反応は陰性であった。肺結核症を疑い、喀痰と胃液で塗抹検査、抗酸菌培養、PCR提出したがすべて陰性であり、胸部レントゲン、胸部CTを施行したが明らかな病変は認められなかった。クォンティフェロンは陽性であった。腸結核を疑い下部消化管内視鏡検査を施行、横行結腸に長軸直角方向に引きつれを伴う1/3周性の輪状潰瘍を認めた。病理組織診断にて乾酪性類上皮肉芽腫が証明され、また腸組織抗酸菌培養は陽性であった。腸結核および結核性腹膜炎と診断し4剤併用の結核化学療法(INH、RFP、PZA、EB)を開始した。今回我々は病理組織診断による結核性腹膜炎、卵管炎の診断を契機に腸結核の診断に至った1例を経験した。原発性腸結核は特徴的な症状に乏しいが、下部消化管内視鏡所見は最も特徴的で有用であり、炎症性腸疾患、悪性腫瘍との鑑別が重要である。