日本消化器内視鏡学会甲信越支部

46.門脈・肺動脈腫瘍塞栓症を合併した膵癌の1例

新潟県立がんセンター新潟病院 内科
加藤 俊幸、本山 展隆、青柳 智也、栗田  聡、佐々木俊哉、船越 和博
新潟県立がんセンター新潟病院 病理検査科
西田 浩彰

膵癌では門脈血栓を生じ予後不良となることはあるが、肺腫瘍塞栓症はまれである。

患者は70歳代の男性。主訴は食欲不振、体重減少。2009年4月に食欲不振と月5kgの体重減少のため市民胃がん内視鏡検診を受診し、胸部食道癌0-IIcが発見された。治療前のCTでは3cm大の膵癌を認め、脾動静脈・腹腔動脈浸潤、門脈血栓を伴っていた。さらに両肺転移、左右の下肺動脈塞栓症、気管分岐部・縦隔LN腫大を認められた。頻脈、ふらつき、歩行後の低酸素血症があり緊急入院。CEA  2.6、CA19-9 976、SCC  1.2、DUPANII  190、Elastase  I  560、p53Ab<0.4、ANA<40、IgG4  59。内視鏡では下部食道癌0-IIa+IIc(SM)と0-IIc(M)、胃癌0-IIc(M)の多重複癌と診断されたが、膵癌T4N1M1(lung)として化学療法を受けた。呼吸苦は消失し食欲も改善した後は外来化学療法として継続可能となり、S1+GEM療法13コース、GEM単独12コース、さらにS-1+GEM療法9コースを継続し膵癌はSDを維持できた。しかし、2年後の2011年5月には肝転移が出現し、また食道癌が進行し狭窄症状を呈したため9月に36Gy照射した。9月には両側肺野に浸潤影が広範に出現して低酸素血症となり、肝転移は増大、腹水も増加し10月に呼吸不全で死亡された。全経過2年6カ月であった。

剖検では膵癌は4.3cm大の浸潤性膵管癌で、肝・胆嚢・肺に転移し門脈・両肺動脈腫瘍塞栓を伴っており、死因は肺出血と肺梗塞であった。診断時から門脈と肺動脈に塞栓症を認めたが、化学療法が有効であった。