日本消化器内視鏡学会甲信越支部

45.糖尿病増悪を契機に発見された破骨細胞様巨細胞型退形成性膵管癌(StageΙ) の1例

長野市民病院 消化器内科
伊藤 哲也、神保 陽子、田多井敏治、長屋 匡信、関 亜矢子、越知 泰英、原  悦雄、長谷部 修
長野市民病院 消化器内科
成本 壮一
長野市民病院 臨床病理診断科
大月 聡明、保坂 典子

症例は74歳女性。1991年に早期胃癌に対し幽門側胃切除術(BillrothΙ法再建)施行。術後より糖尿病と診断され、近医にて内服治療を受け、HbA1cは6.1から6.7%を推移していた。2010年9月よりCEA高値(11.9ng/ml)を指摘されたが漸増傾向はなく、上下部消化管内視鏡検査および腹部単純CTにて異常所見を認めず経過観察されていた。2012年4月にHbA1c  9.8%、CEA  26.6ng/mlと増悪し、それまで基準値未満であったCA19-9が345U/mlに上昇していた。また、体重が4か月で3kg減少し、膵癌が疑われ精査目的に当科紹介となった。腹部造影CTでは膵頭部に造影後期相で淡く造影される径10mmの結節性病変を認め、病変より尾側で主膵管は著明に拡張していた。CTおよびMRIでは明らかな遠隔転移やリンパ節腫脹は認めなかった。ERPでは頭部膵管が途絶しており、閉塞部の擦過細胞診ではclassⅢであった。EUSでは12mmの内部エコー不均一な低エコー性腫瘤として描出され、EUS-FNAにてclassⅤ(低分化型腺癌)と判定された。以上よりTS1膵管癌と診断し、膵頭十二指腸切除術を施行した。手術標本の病理組織学的所見では、核異型が目立つ多形性腫瘍細胞が充実性に増殖し、一部に通常型の管状腺癌を伴っていた。また、腫瘍部には多数の多核巨細胞が混在し、免疫染色にてAE1/3(-)、vimentin(+)、CD68(+)であったことから、破骨細胞様巨細胞型退形成性膵管癌(pT1N0M0、StageΙ)と診断した。退形成性膵管癌は、膵癌取扱規約第6版では浸潤性膵管癌の1組織型と分類され、巨細胞型、破骨細胞様巨細胞型、多形細胞型、紡錘細胞型に分類される。日本膵臓学会膵癌登録によれば退形成性膵管癌の頻度は0.16%と稀である。本症は予後不良とされるが、伊志嶺らの検討によると組織型ごとに生存期間が異なり、破骨細胞様巨細胞型の平均生存期間が44.6カ月と最も良好であった。医学中央雑誌での検索では、1983年から2012年までに破骨細胞様巨細胞型退形成性膵管癌として18症例が報告されているが、TS1およびStageΙ症例は非常に稀であるため、若干の文献的考察を加えて報告する。