症例は74歳女性。1991年に早期胃癌に対し幽門側胃切除術(BillrothΙ法再建)施行。術後より糖尿病と診断され、近医にて内服治療を受け、HbA1cは6.1から6.7%を推移していた。2010年9月よりCEA高値(11.9ng/ml)を指摘されたが漸増傾向はなく、上下部消化管内視鏡検査および腹部単純CTにて異常所見を認めず経過観察されていた。2012年4月にHbA1c 9.8%、CEA 26.6ng/mlと増悪し、それまで基準値未満であったCA19-9が345U/mlに上昇していた。また、体重が4か月で3kg減少し、膵癌が疑われ精査目的に当科紹介となった。腹部造影CTでは膵頭部に造影後期相で淡く造影される径10mmの結節性病変を認め、病変より尾側で主膵管は著明に拡張していた。CTおよびMRIでは明らかな遠隔転移やリンパ節腫脹は認めなかった。ERPでは頭部膵管が途絶しており、閉塞部の擦過細胞診ではclassⅢであった。EUSでは12mmの内部エコー不均一な低エコー性腫瘤として描出され、EUS-FNAにてclassⅤ(低分化型腺癌)と判定された。以上よりTS1膵管癌と診断し、膵頭十二指腸切除術を施行した。手術標本の病理組織学的所見では、核異型が目立つ多形性腫瘍細胞が充実性に増殖し、一部に通常型の管状腺癌を伴っていた。また、腫瘍部には多数の多核巨細胞が混在し、免疫染色にてAE1/3(-)、vimentin(+)、CD68(+)であったことから、破骨細胞様巨細胞型退形成性膵管癌(pT1N0M0、StageΙ)と診断した。退形成性膵管癌は、膵癌取扱規約第6版では浸潤性膵管癌の1組織型と分類され、巨細胞型、破骨細胞様巨細胞型、多形細胞型、紡錘細胞型に分類される。日本膵臓学会膵癌登録によれば退形成性膵管癌の頻度は0.16%と稀である。本症は予後不良とされるが、伊志嶺らの検討によると組織型ごとに生存期間が異なり、破骨細胞様巨細胞型の平均生存期間が44.6カ月と最も良好であった。医学中央雑誌での検索では、1983年から2012年までに破骨細胞様巨細胞型退形成性膵管癌として18症例が報告されているが、TS1およびStageΙ症例は非常に稀であるため、若干の文献的考察を加えて報告する。