日本消化器内視鏡学会甲信越支部

43.嚢胞内出血を伴う膵炎症状を繰り返したIPMAの1例

長野赤十字病院消化器内科
徳竹康二郎、田中 景子、今井隆二郎、三枝 久能、藤澤  亨、森  宏光、松田 至晃、和田 秀一、清澤 研道
長野赤十字病院消化器外科
袖山 治嗣
長野赤十字病院病理部
渡辺 正秀
信州大学医学部附属病院臨床検査部
小林実喜子

症例は77歳男性。2007年9月に急性膵炎のため他院にて入院治療を受けた。その後、膵周囲に嚢胞が認められたため当科に経過観察を依頼。仮性嚢胞と診断し経過を見る方針とした。2008年8月に急性膵炎を発症し当院入院。仮性嚢胞は膵頭部と尾部に残存していたが縮小傾向であった。MRCPで膵体部の膵管狭窄が疑われたためERCPを施行したが狭窄は認めず、頭部の嚢胞は膵管との交通を認めた。膵液細胞診は陰性であった。その後2011年3月、10月、2012年1月に特別な誘引無く膵炎症状で入院。発症時にはいずれも膵頭部の嚢胞内に出血を疑う高吸収を認めた。膵頭部の嚢胞は30×24mm大で、経過中大きな変化を認めなかったが、EUSでは内部に薄い隔壁と4mm大の小結節も認められ、IPMNが疑われた。ERCPでは乳頭に異常を認めず、主膵管内に粘液と思われる少量の透亮像を認めた他は前回と同様の所見で膵液細胞診も陰性であった。検査後の膵炎予防目的に5Frの膵管ステントを留置したが、約1ヶ月後の2012年4月に再び膵炎を発症した。頻回に膵炎を繰り返し、PETでも膵頭部の嚢胞に集積を認めたことより手術適応と診断し、2012年7月に膵頭十二指腸切除術を施行した。主膵管は約7mmに拡張し、膵頭体移行部には10×10×7mmの多房性嚢胞性病変を認め一部内腔に結節を含んでいた。病理組織所見では嚢胞性病変の内面は、両染性~淡両染性、高円柱状で異型性の乏しい粘液上皮細胞に覆われ、一部で軽い乳頭状凹凸を認める以外はほぼ平坦であり、粘液染色ではMUC2陰性、MUC5AC陽性、MUC6陽性の胃型形質を示した。悪性所見を認めず、Intraductal  papillary  mucinous  adenoma  of  the  pancreasと診断された。嚢胞内の結節様隆起は炎症性肉芽組織であった。嚢胞出血の原因となった部位は特定できなかった。IPMNにより膵炎症状を来すことは知られているが、嚢胞内出血を伴う膵炎症状を繰り返した経過は極めて希と考えられたため、若干の文献的考察を加えて報告する。