日本消化器内視鏡学会甲信越支部

39.肝細胞癌と門脈血栓症を同時に発症し、ダナパロイドによる門脈血栓治療直後 にRFAを行ったC型肝硬変の一例

市立甲府病院 消化器内科
早川  宏、雨宮 史武、小林 祥司、小松 信俊、門倉  信、山口 達也、大塚 博之
山梨大学 医学部 第一内科
横田 雄大、進藤 邦明、中山 康弘、井上 泰輔、前川 伸哉、坂本  穣、榎本 信幸

症例は81歳女性。1991年よりC型肝硬変のため定期通院していた。下腿浮腫と腹部膨満感の増悪が2週間ほど前から出現したとのことで2012年5月25日に受診。腹部造影CTで門脈本幹、門脈左右枝に壁に沿うような造影欠損像を認め門脈血栓の形成が疑われた。同時に肝S3に動脈相で濃染し、平衡相で抜けをしめす15mmの結節も認められ、肝細胞癌(HCC)も合併していると診断された。まずは門脈血栓溶解目的で5月27日に入院となった。【入院時身体所見】眼球に黄染なし、腹部は軽度膨隆、肝は触知せず、両下腿にpitting edemaあり。【入院時検査所見】WBC  3700/μl、RBC  340万/ul、Plt  7.7万、AST 53  IU/l、ALT  29  IU/l、ALP  479  IU/l、T.Bil  2.2  mg/dl、D.Bil  0.6  mg/dl、Alb  3.2  g/dl、PT  59.0%、Fib  183mg/dl、AT3 46%、FDP  21μg/ml、D-Dimer  14.7μg/ml、ICG  R15  46.0%、AFP  3.7  ng/ml、PIVKA-2  11mAU/ml【入院後経過】入院当日からダナパロイドナトリウム1250mg×2回/day  14days、アンチトロンビン3製剤 1500単位 3daysの投与を開始した。投与後、D-Dimerは低下し、治療終了時のEOB-MRIでは門脈血栓は大部分溶解され、左右分岐部にわずかに残るのみであった。肝予備能も腹水は減少、Alb3.4、T.Bil1.5、PT  71%とC-P  10→8点に改善した。ダナパロイドナトリウムの治療を終了した翌日にS3 HCCに対してRFAを施行、治療後6時間後からヘパリン投与を開始した。RFAの治療効果判定が十分であることを確認し、ヘパリンをワーファリンの内服に切り換えその後も門脈血栓の増悪が無いことを腹部エコーで確認し退院となった。【考察】肝硬変症における門脈血栓の発生頻度は3~10%程度といわれており、また門脈血栓に対するダナパロイドの有用性が報告されている。本症例もダナパロイドにより門脈血栓が著明縮小し、肝予備能も改善した。また治療に伴う合併症もなく、治療直後にRFAを行うことができた。適応症にDICしか認められていない等の問題もあるが、門脈血栓症に対してダナパロイドは有効な治療法になりうると考えられた。