日本消化器内視鏡学会甲信越支部

34.小腸内視鏡にて術前診断しえた腸重積合併回腸Inflammatory fibroid polyp (IFP)の1例

長野市民病院 消化器内科
長屋 匡信、原  悦男、神保 陽子、多田井敏治、伊藤 哲也、関 亜矢子、越知 泰英、長谷部 修
長野市民病院 消化器外科
沖田 浩一、竹本 香織、宗像 康博
長野市民病院 病理診断科
大月 聡明、保坂 典子

症例は59歳女性。2012年2月中旬に腹痛を認め、近医にてPPI処方されたが改善がなかった。3月初めに前医を受診され、上部・下部消化管内視鏡検査を施行されたが異常を認めなかった。症状が自然軽快したため経過観察となった。5月16日に再度腹痛を認め、前医を再診された。レントゲン上小腸ガスニボー像、CTで小腸重積を認めた。絶食、補液加療にて症状は改善し、ニボー像も消失した。CT上、重積部分に壁肥厚を認め、小腸腫瘍による腸重積が疑われ、精査加療目的に5月23日当院紹介受診された。精査目的の経口及び経肛門シングルバルーン小腸内視鏡を行い、回腸に立ちあがりがなだらかで、可動性良好な大きさ40mm程度の亜有茎性腫瘤を認めた。病変の立ち上がりは発赤、腫大した小腸絨毛構造であるが、病変の頭部は絨毛を認めず褪色調の平滑な構造であり、ずるむけの所見であった。生検では軽度の炎症細胞浸潤と繊維化を伴っており、腫瘍性変化を示唆する所見はなく、炎症性ポリープの診断であった。内視鏡所見からは小腸癌、悪性リンパ腫、間葉系腫瘍は否定的であり、CT検査でもリンパ節腫脹など悪性を示唆する所見は認めなかった。以上の結果より小腸Inflammatory  fibroid polyp(IFP)が最も疑われた。腫瘍が大きく、腸重積を起こしたことから手術適応と判断し、6月29日に腹腔鏡下小腸部分切除術を行った。切除標本上腫瘍は40×35mm大のポリープ様病変で、頚部は既存の小腸粘膜に覆われているが、頭部はびらんを呈していた。組織所見では、病変の主座は粘膜下組織にあり、血管増生が目立つ肉芽組織様間質を背景に、多数の好酸球が浸潤していた。腫瘍性増生を示唆する所見はなく、IFPと診断した。IFPは胃に多く小腸には比較的少ないとされている。小腸IFPの多くは腸重積をきたし、術前診断が困難とされ、腸重積・腸閉塞による緊急手術での切除標本病理組織所見で診断されることが多い。今回われわれは、小腸内視鏡にて術前診断が可能であった回腸IFPを経験したので報告する。