日本消化器内視鏡学会甲信越支部

28.2回の先行性腹膜炎をきたした十二指腸潰瘍の1例

長野県立 木曽病院 外科
秋田 眞吾、西川 明宏、小山 佳紀、河西  秀、久米田茂喜
信州大学 病理組織学講座
小林 基弘、下条 久志

症例は86歳、女性。既往歴に62歳時に左人工関節置換術。2010年10.28当院整形外科にて左股関節人工関節周囲炎の診断でドレナージ術施行。3病日より心窩部痛出現。腹部所見で腹膜刺激徴候、画像検査においてFreeAirが認められ同日当科紹介。消化管穿孔・腹膜炎の診断で緊急開腹術施行し十二指腸球部前壁の穿孔が認められ、縫縮・大網被覆・ドレナージ術を施行した。PPIを併用し術後経過は順調であり術後の合併症を認めず経過し退院。術後、十二指腸潰瘍の状態とヘリコバクター検索のために上部消化管内視鏡検査を施行し、十二指腸潰瘍瘢痕がbulbusに認められ、H.Pyloriは陰性であった。PPIを継続処方としたが、それ以降来院されなかった。術後1年3カ月経過の後、右季肋部の腹痛を主訴に当院受診。腹部所見で腹膜刺激徴候が、画像検査によりFreeAirが認めらた。PPI内服は来院されなくなってからの1年間は内服中断とのことであった。同日消化管穿孔・腹膜炎の診断で、緊急開腹術を施行した。十二指腸球部近傍の大網を剥離していくと十二指腸球部前壁に径2cmの穿孔部を認め、Vater乳頭は穿孔部の肛門側約2cmに位置していた。穿孔部周囲は硬化し、穿孔部が大きく穿孔部の縫合閉鎖や大網充填・被覆は不可能であると判断し、可及的に穿孔部を含める形で胃切除、B-II再建とした。十二指腸断端は、断端周囲が炎症により硬化しており断端を確保することが、非常に困難であったが、十二指腸全層と粘膜とを確保しVater乳頭との距離も確保しつつ、穿孔部を縫合閉鎖し、大網を被覆した。切除した胃の病理検査ではH.Pyloriは認められなかった。術後経過は順調であり再発は認めず経過中である。一般的に十二指腸潰瘍の発生原因としてH.Pyloriまたは、NSAIDsの内服既往があるとされるが、本症例はH.Pylori、NSAIDs内服の既往がなく2度の潰瘍穿孔をきたした点で比較的稀と思われ、若干の文献的考察を加え報告する。