日本消化器内視鏡学会甲信越支部

21.誤飲した総義歯を内視鏡にて摘出した一例

長野中央病院 消化器内科
小島 英吾、小林奈津子、田代 興一、太島 丈洋、松村真生子

高齢化社会に伴い義歯の誤飲症例に遭遇することも多くなった。しかし、そのほとんどの症例は部分義歯であり、総義歯は極めて稀である。また、総義歯の多くはX線透過性であるアクリックレジンを用いており、実は診断にも慎重を要する。今回われわれは、CTを用いて総義歯誤飲を診断し、内視鏡にて摘出した症例を経験したため報告する。症例は73歳、女性。主訴はのどの詰まり感。既往歴として統合失調症のため近医に長期入院中である。平成24年2月某日の夕食中に下顎総義歯がはずれ、のどに詰まった感じがするとのことで来院された。胸部レントゲンでは咽頭、食道には明らかな異物および異常所見を指摘することはできなかった。胸部CT  coronal像にて上部から中部食道にかけて約6cm×5cm大の総義歯が誤飲されていることが明瞭に描出された。内視鏡的に摘出を試みるために、総義歯中心部にスネアをかけてしっかりと把持した上で引き抜こうとしたが、抵抗が強く不可能であった。そこでスネアを総義歯の端にかけて、食道内腔径に対して義歯の最短径である約5cmの長さで引っ張れるように工夫を行い、内視鏡を適宜回転させながら腕の感触にて抵抗の最も少ない場所を選びながらゆっくりと引き抜いたところ摘出に成功した。総義歯はその大きさにより誤飲すること自体が稀であるが、誤飲した際には自然排泄はほとんど期待できない。食道内に停滞し局所で炎症を惹起したり、食物通過を阻害したりする恐れがあるために早急に摘出が必要である。有鈎義歯と異なり、縁どりは平滑であるため大きさはあるものの、愛護的に操作すれば内視鏡的摘出が可能な症例もあるものと思われる。診断にはCTが有用であり、摘出には最短径を食道内腔に合わせるような工夫によって内視鏡的摘出に成功した下顎総義歯の一例を報告する。