日本消化器内視鏡学会甲信越支部

20.通常咽頭観察では発見し得なかった進行下咽頭癌の1例

市立甲府病院
小林 祥司、山口 達也、大塚 博之、早川  宏、小松 信俊、門倉  信、雨宮 史武
山梨大学医学部第一内科
大高 雅彦、佐藤  公、榎本 信幸

【症例】60歳代男性。【主訴】嚥下時違和感。【現病歴】2012年2月に食道静脈瘤の経過観察目的で上部消化管内視鏡を施行した。このときに嚥下時の違和感を自覚していたが、咽頭部には明らかな異常は指摘されなかった。耳鼻科での内視鏡検査でも異常は指摘されなかった。経過観察をしていたが、嚥下違和感の増悪があり、同年6月に内視鏡再検査を行った。内視鏡抜去時に下咽頭に出血を認め、かろうじて腫瘍の存在が確認されたが、全体像は確認できなかった。その後、経鼻内視鏡でのValsalva法を用いることで腫瘍の全体像が明らかとなり、扁平上皮癌と診断がついた。【既往歴】アルコール性肝硬変。食道静脈瘤。【背景】飲酒はビール大瓶5本を毎日。喫煙1日40本20年前まで。【経過】その後の検査で、下咽頭癌(T3N2M0)と診断された。食道静脈瘤結紮術を先行させ、現在放射線化学療法を施行している。【考察】頭頚部と食道では、扁平上皮癌の重複癌が認知されている。中下咽頭癌の早期発見には、上部消化管内視鏡検査時に咽頭口頭領域の観察を同時に行うことが重要になってくる。被験者の姿勢やScope操作に対する注意、被験者側からの呼吸の補助や発声による補助などの工夫を重ねて、咽頭観察を行っている。それでも、輪状後部や下咽頭後壁には死角となる部位が存在し、その観察には経鼻内視鏡によるValsalva法の有用性が示唆されている。本症例も輪状後部と下咽頭後壁との接着する部位に病変を認め、比較的大きな病変であったにもかかわらず、通常の咽頭観察では診断できず、経鼻内視鏡によるValsalva法によってのみ、全体像の観察が可能であった。咽頭観察の際の手順や工夫について、当院での経験も含めて報告する。