日本消化器内視鏡学会甲信越支部

19.初発時より食道気管支ろうを伴った食道癌の一例

諏訪赤十字病院 消化器科
芦原 典宏、進士 明宏、溜田 茂仁、上條  敦、太田 裕志、武川 建二、山村 伸吉
諏訪赤十字病院 外科
丸山起誉幸
諏訪赤十字病院 病理部
中村 智次

症例は58歳男性。2か月前から咳嗽と嚥下困難が出現、近医で上部消化管内視鏡検査(以下EGD)を施行され胸部中部食道に3型腫瘍を認め、生検でCategory5、中分化のsquamous  cell  carcinomaの食道癌と診断され、精査加療目的で当院に紹介となった。食道造影で右気管支6番へのろう孔が見られたが、気管支鏡検査では直接観察することはできなかった。病期分類ではUICC第7版でcStage4(T4bN2M1)で手術適応はなく、化学放射線療法(5-FU  700mg/m2/day1-4,day29-32+CDDP 70mg/m2/day1,day29;  20%減量,60Gy;2Gy×5day/week×6week)を開始した。治療4週間後の食道造影ではろう孔はやや縮小したが、治療終了後の食道造影でろう孔は拡大しており、胃瘻造設を施行した。追加のFP療法2コースを行った後CTとEGD/食道造影で縦隔内に腫瘍の残存みられるものの鎖骨上リンパ節は縮小し、食道縦隔婁は残存あるが気管支への造影剤の流入はほとんど見られなくなっていた。経口摂取によるQOLの改善目的にバイパス手術を施行し、初診時から6か月の時点で生存している。食道気管支ろうは食道癌の5~10%に合併症とみられる。初診時に見られるものは稀で1995年から2012年の域で『食道癌、食道気管』をキーワードに医学中央雑誌で検索した所本邦報告例は7例のみで、気管浸潤を伴う症例での化学放射線療法後の発症が24件と多かった。主な症状としては、咳嗽・発熱などの肺炎による症状と経口摂取困難による低栄養が中心となり、平均3、4か月で死亡に至ると報告されている。治療として食道、気管両方に対するDouble-stent留置は生命予後、QOLの改善に有効と報告があるが、再留置や逸脱、穿孔などの有害事象も起こりうる。また、本例のように瘻孔へのアクセスが困難な場合は実施不可能である。こうした場合、本例で行われたバイパス術が一つの選択肢になるものと考える。