【はじめに】難治性腹水を伴う肝硬変は治療経過中に肝腎症候群を伴い予後が悪くなることが多い。今回Denver shuntが極めて有用であった肝硬変の1例を経験したので報告する。【症例】70歳、男性。肝硬変(非B非C)に伴う腹水の治療目的で2008年4月に紹介初診となった。黄疸、下腿浮腫は認めず、腹部膨満を認めた。身長155 cm、体重85 kg、RBC 419x104 /ml、Hb 13.2 g/dl、WBC 4400 /ml、 Plt. 7.2x104/ml、TB 1.05 mg/dl、 AST 33 U/L、ALT 30 U/L、Alb 3.7 g/dl、ChE 348 U/L、BUN 19.4 mg/dl、Cr 0.9 mg/dl、ICG 27 %、PT 66 %、Child-Pugh B(8)であった。経口利尿剤(フロセミド 20mg)で加療開始したが、2010年8月頃から僅かな環境変化で腹水増加、全身浮腫をきたし入退院を繰り返していた。安静、塩分制限、アルブミン投与、経口利尿剤増量および注射製剤の追加にて対応したが、腹水、下腿浮腫は軽減せず、Alb 3.3、ChE 211、BUN 35、Cr 1.6、PT 68となった。第6回以降の入院では入院毎に腹水穿刺、濃縮還流を行い体重は72~77.0 kgで推移していた。2011年7月に再び体重が増加し呼吸困難を伴うため第9回入院となった。難治性腹水として8月初旬にDenver shunt(腹腔静脈shunt:米国ケアーフュージョン社)を留置した。軽度のDICを起こしたが、ガベキサートメシル酸塩 1500mg/日、AT III製剤 1500単位(3日間)で対応した。第10病日に退院したが、2週後に腹水が再増加したためshunt閉塞を疑い入院となった。shunt造影にて閉塞を認めたためウロキナーゼ 2.4万単位注入したところ、再開通し腹水および体重は減少した。2012年8月には体重75、TB 1.05、Alb 4.0、ChE 257、BUN 19.5、Cr 1.2、PT 80、腹水肝表にごく少量でChild-Pugh A(6)と改善した。肝容積はshunt留置時1285 mlであり、5ヶ月後1410、9ヶ月後1428と改善した。【考察および結論】Denver shunt留置により利尿剤投薬なしで良好な腹水コントロールが得られ、肝機能およびADLが著明に改善した。難治性腹水症例は良い適応であり有用な治療法と考えられる。