日本消化器内視鏡学会甲信越支部

16.肝嚢胞性腫瘍と鑑別が困難であった肝嚢胞内出血の1例

信州大学 医学部 附属病院 消化器外科
増尾 仁志、小林  聡、横山 隆秀、清水  明、本山 博章、古澤 徳彦、酒井 宏司、野竹  剛、北川 敬之、横井 謙太、福島健太郎、宮川 眞一
信州大学 医学部 附属病院 画像医学講座
山田  哲、高橋 正明
相澤病院 消化器内科
薄田 誠一

【はじめに】肝嚢胞は画像検査で、比較的容易に診断される良性疾患である。しかし、嚢胞内出血を合併した場合は多彩な画像所見を呈し、嚢胞性腫瘍との鑑別が問題となることがある。今回、肝嚢胞性腫瘍との鑑別を要した肝嚢胞内出血を経験したので報告する。【症例】69歳女性。59歳時に複数の肝嚢胞を指摘されていた。経過観察のCT検査で嚢胞内に壁在結節を指摘され、肝嚢胞性腫瘍の疑いで当科紹介受診。CT検査所見:肝右葉に壁在結節を伴う150mm大の嚢胞性病変を認めた。MRI検査所見:嚢胞内部はT1WI、T2WI共に高信号。壁在結節は45mm大でT1WI及びT2WIにて低信号、T2*WIにて内部に著明な低信号域を認め、一部に点状の造影効果を認めた。胆管内乳頭状腫瘍を示唆するような胆管拡張や胆管との交通は認めなかった。以上の所見から、肝嚢胞内出血と肝嚢胞性腫瘍が鑑別として考えられた。MRI検査で壁在結節の大部分は造影効果を認めず、結節内部がT2*WIで著明な低信号を呈す所見から、嚢胞内出血に伴う肉芽形成が示唆されたが、一部点状に造影効果を認める点で肝嚢胞性腫瘍を完全には否定できず、拡大肝右葉切除術を施行した。切除標本肉眼所見:嚢胞内容液は褐色泥状。嚢胞内結節は30×50mm大、表面不整で色調は薄い茶褐色。病理所見:嚢胞内結節は内部にフィブリンを密に認め、明かな腫瘍性病変は認められず、出血による浸出物、血腫と診断された。術後は合併症なく経過し、術後第15病日に退院となった。【考察】本症例の如く、嚢胞内出血は内部に腫瘤様の所見や隔壁像、壁肥厚等の多彩な所見を呈するため、肝嚢胞性腫瘍との鑑別が困難である。文献的考察を併せて報告する。