日本消化器内視鏡学会甲信越支部

14.繰り返す腹痛発作と肝機能異常を呈した赤芽球性プロトポルフィリン症の1例

信州大学 医学部 消化器内科
藤森 尚之、小松 通治、山崎 智生、柴田壮一郎、岩谷 勇吾、村木  崇、木村 岳史、森田  進、城下  智、梅村 武司、田中 榮司
信州大学医学部附属病院 遺伝子診療部
古庄 知己

症例は20代の男性。幼少期より日光過敏症を認めていた。10代後半に原因不明の腹痛発作を呈し、血液検査で肝機能異常を認めたため、精査入院の既往が2回ある。各種肝炎ウイルス検査は陰性であり、画像検査でも特記すべき所見を認めなかった。

入院後の保存的加療で腹痛は治まり、肝機能異常は自然に軽快した。2度目の入院時にはエコー下肝生検が施行され、肝組織中に褐色の沈着物を認めたものの、確定診断には至らず外来で経過観察されていた。

2012年5月に再度腹痛発作が出現したため精査加療目的に当科入院となった。入院時  AST  179IU/l、ALT  406IU/l、T.bil 6.74mg/dl、PT%  76.8%と肝機能異常を認めたが、ウイルスマーカー、自己抗体など何れも陰性であり原因は不明であった。

再度施行した肝生検所見では前回の標本と比較して線維化の進行を認め、褐色の沈着物は増加していた。偏光顕微鏡で観察すると沈着物は赤色調を呈しておりポルフィリンの沈着が疑われた。その後の検査で糞便中プロトポルフィンと赤血球遊離プロトポルフィンが著明な上昇を示しており、赤芽球性プロトポルフィリン症(EPP)を強く疑った。EPPはヘム合成経路の最終段階に関与するフェロケラターゼ(FECH)の活性低下が原因であるため、FECH遺伝子検索を行ったところ遺伝子変異を認め本症例はEPPの確定診断に至った。

EPPは本邦での報告は150例ほどの稀な疾患である。有効な治療法はないため病態が進行すると肝不全を発症し死亡する報告例もある。日常診療において日光過敏症の既往があり、腹痛発作・肝機能異常を繰り返す症例では、ポルフィリン症を念頭に診療すべきである。当症例は母親にも日光過敏症を認めており、現在家族内調査を施行中である。