日本消化器内視鏡学会甲信越支部

28.大腸ESD後急性膵炎を発症した1例

長野中央病院
太島 丈洋、田代 興一、小林 奈津子、松村 真生子、小島 英吾

症例は68歳女性.既往歴は特になし.CEA高値の精査で下部消化管内視鏡検査を施行したところ,S状結腸に30mm大のLST-Gを認めた.後日Flush knife 1.5mmを使用し大腸ESDを施行した.術時間は約1時間で,特に術中に偶発症は認めず,術後に腹痛の訴えもなかった.術後CTでもfree airや結腸周囲の炎症は認めなかった.しかし翌朝に腹痛・嘔気嘔吐が出現したため血液検査・CT検査を施行したところ膵体部~尾部の急性膵炎を発症している事が判明した.絶飲食と大量補液で治療を行ったところ,第2病日には症状および血液データも改善し,第3病日には飲水再開,第4病日からは食事も再開したが,特に症状の再燃を認めなかった.第6病日にはデータも正常化し,第9病日に退院となった.小腸内視鏡検査では検査後の急性膵炎の報告は多数認められ,原因としてはスライディングチューブのバルーンによる乳頭の圧迫やスコープによる乳頭の刺激,またスコープ自体の膵臓への機械的刺激などが考えられている.本症例はS状結腸の病変であり,スコープ操作による機械的刺激や高周波ナイフによる刺激などが原因と考えられた.大腸ESDは本年3月末まで先進医療として全国多数の施設で施行され,4月からは保険診療が認められた.これまで全国で多数例施行されているが,大腸ESD後の急性膵炎の発症の報告はなく,貴重な症例と考えられたため文献的考察を加えて報告する.