日本消化器内視鏡学会甲信越支部

24.Full covered metalic stentを留置後重症膵炎を起こした下部胆管癌の1例

国立病院機構 まつもと医療センター 松本病院 消化器科
宮林 秀晴、松田 賢介
国立病院機構 まつもと医療センター松本病院 内科
松林 潔、古田 清、小林 正和、小池 祥一郎

症例は89歳, 女性。大腿骨頚部骨折術直後に深部静脈血栓が発見され、下大静脈フィルター留置・wafarinを導入された。その後肝胆道系酵素の上昇があり、腹部超音波検査で肝内胆管と総胆管の拡張を認めたためERCPを施行。造影で下部胆管の不整狭窄所見とブラシ細胞診でClass3であり下部胆管癌と診断。PS不良のため手術はせずplastic stent(PS)留置3ヶ月後にpartial covered stentを留置し施設入所となった。約1年後38.2度の発熱があり同日夕方から黄疸が出現し、胆管ステント閉塞の疑いで入院。同日ERCPを施行。ステント内は胆泥とステント十二指腸側のingrowthにより閉塞しており、胆泥除去の後一時的にPSを留置。一時的に肝胆道系酵素の低下が得られたがその後再度上昇したため以前と同長・同径のfull covered metalic stentを留置した。留置約2時間後から心窩部痛と嘔吐を呈し、2000IU/lを超える高AMY血症とGrade2のCT所見から重症急性膵炎と診断し、FUT大量・MEPM投与・大量補液を行い翌々日にはステントを一旦抜去。胆道系酵素・膵酵素の低下は認められたが、膵性胸腹水・溢水からCO2ナルコーシスとなったため人工呼吸器管理となった。その後2回呼吸器離脱したが、炎症反応の低下は得られず、膵嚢胞・感染症・胸腹水による呼吸不全が改善しなかった。胆管ステント再留置を行ったが腎不全の増悪により死亡した。full covered metalic stentはingrowthは来しにくいものの胆管癌など膵機能が保持されている場合は頭側膵管の圧迫や膵管口の閉塞による膵炎を起こす可能性があり、症例の選択と留置位置には厳密な注意が必要であると考えられた。