日本消化器内視鏡学会甲信越支部

19.自然経過にて軽快傾向を示している自己免疫性膵炎疑いの一例

長野中央病院 消化器内科
小島 英吾、小林 奈津子、田代 興一、太島 丈洋、田中 忍、松村 真生子

今回われわれは,自己免疫性膵炎の疑いと診断し無治療にて約19カ月の経過観察で軽快傾向を示した症例を経験したため報告する.症例は68歳,女性.主訴は膵頭部腫瘤精査.2010年5月にスクリーニング目的に施行した腹部超音波検査にて,膵頭部に約30mm大の低エコー腫瘤を認めた.CTでは膵頭部に比較的境界は明瞭な乏血性腫瘤として描出され,内部は単純および造影後期相にて均一,造影早期相では腫瘤内部に点状の濃染域を認めた.末梢膵管は拡張し膵実質は萎縮しているが,体尾部では膵の分葉状構造は消失し,直線化していた.ERCPでは膵管は膵頭部で限局性の平滑な狭細化を認めたが,体尾部膵管は拡張していた.胆管は下部で約10mm長の限局性の狭窄を認めた.膵管の擦過細胞診や胆管の経乳頭的生検,FNAでは癌や自己免疫性膵炎に特徴的な組織は得られなかった.血液検査ではIgG4が182mg/dlと上昇しており,確診には到らないものの自己免疫性膵炎の疑いと診断した.無症状であったため,ステロイド投与は行わず経過観察を行った.膵癌を完全に否定できないと考えられたため,約3ヵ月に1度のCT検査を中心にfollow upを行ったところ,膵頭部腫大は約19ヵ月間の経過で1/3の大きさにまで縮小し,軽快傾向にあるものとして現在も経過観察を続けている.自己免疫性膵炎は近年になって多くの解明がなされてきているが,未だに,その診断,治療,経過について議論の余地が残っている.本症例は多くの示唆に富むものと考え報告する.