日本消化器内視鏡学会甲信越支部

13.早期胃癌に対するESDおよび追加手術施行後に発生した肝腫瘍

JR東京総合病院 消化器外科
片山 原子、小山 要、山本 竜太、澤谷 哲央、田中 弦
JR東京総合病院 臨床検査科
関 邦彦

【背景】胃のM癌術後に血行性転移をきたす症例は稀である。胃のM癌で、ESD後に追加切除を施行後に肝腫瘍が発生し、肝腫瘍の質的診断に難渋した症例を経験したので、報告する。【症例】初診時70歳男性。早期胃癌にて2008年7月にESDを開始したが、剥離困難で、完結せずに終了となった。従って、1カ月半後に手術:幽門側胃切除,D1+beta,Roux-Y再建を施行した。M領域大弯のIIcで、深達度M,リンパ節転移は認めず、Stage IAであった。術後、再発所見なく経過中、術後2年経過頃よりCEA, CA19-9の高値を認め、術後2年3カ月にて肝左葉外側区域に腫瘤の出現を認めた。原発巣の検索を行ったが他には認められず、画像的に肝臓原発も考えにくく、胃癌の転移の可能性が最も大きいと考えた。手術を考えたが、当初、本人希望にて化学療法(TS-1単独)を施行し、効果は認められなかった。診断より3カ月後(胃の術後2年6カ月)において手術:肝部分切除を施行した。病変は割面で4.5cm x 3.5cm大の白色の充実性腫瘤で、肉眼的に腺癌の血行性転移として矛盾しない像であった。しかし病理組織診断では、乾酪壊死および類上皮肉芽腫の形成を主体とする像で、胃癌の転移とする像は認めなかった。【考察】M癌術後のため血行性転移は稀と考えられたが、ESDで剥離困難があったことより、何らかの機序で血行性転移が発生した可能性を考え、肝腫瘤の切除を行ったが、結果として良性の病変であった。【結語】消化管癌の術後に他臓器に腫瘤が発生した場合、臨床像を考慮して、転移性以外の病変も鑑別としてよく検討することの重要性が示唆された。