症例は70代女性。大腸癌集積家系のためスクリーニング目的に近医で上部消化管内視鏡検査を施行した。胃体中部大弯前壁側に7mm大、淡発赤調の隆起性病変を認め、2度の生検でGroup2であったため、精査・治療目的に当科へ紹介された。H. pylori培養は陰性で、除菌治療歴はなかった。病変部周囲は艶やかな非萎縮性胃底腺粘膜であった。しかし、拡大内視鏡観察ではRAC (regular arrangement of collecting venules)がやや不明瞭であり、NBI(narrow band imaging)併用では、やや不規則な円形pitがみられた。病変は隆起中央がやや陥凹し、顆粒状の表面構造を呈した。NBI拡大像では脳回~管状pit構造を示し、酢酸散布によって明瞭化した。微小血管の拡張、不整は乏しかった。分化型粘膜内癌が疑われ、ESDを施行した。組織学的に高分化型管状腺癌 (tub1, low and high grade atypia)の粘膜内癌で脈管侵襲は認めなかった。免疫組織化学ではpepsinogen-I、H+/K+-ATPaseは陰性、粘液形質発現は胃型マーカー(MUC5AC、MUC6)が陽性、腸型マーカー(CD10)が一部陽性で、胃型優位胃腸混合型形質であった。背景粘膜は萎縮を認めない胃底腺粘膜で炎症細胞浸潤、腸上皮化生粘膜は認めなかった。 萎縮のない胃底腺領域に発生する胃分化腺癌の頻度はごく低率と考えられるが、近年胃底腺領域において、pepsinogen-I陽性で胃底腺への分化を示唆するタイプの胃癌の報告も増えている。今後、H. pylori感染率の低下に伴い、背景粘膜に萎縮を伴わない胃癌の症例が増える可能性もあり、それらを念頭に置いた詳細な内視鏡観察が必要と思われ報告する。