日本消化器内視鏡学会甲信越支部

8.扁平表皮下に異常血管が透見された非露出型食道腺癌の1例

JA長野厚生連 佐久総合病院 胃腸科
國枝 献治、小山 恒男、清水 雄大、若槻 俊之、武田 晋一郎、岸埜 高明、篠原 知明、高橋 亜紀子、友利 彰寿、宮田 佳典

近年、食道癌における腺癌の割合が増加してきているが、扁平上皮下に存在する場合は、その発見および側方進展診断が困難である。今回、扁平上皮下に透見された不整血管により、存在診断および進展範囲診断が可能であった食道腺癌症例を経験したので報告する。症例は40歳代、男性。胸やけを主訴に近医を受診し、EGDにてSCJ口側にびらん性病変を指摘され紹介となった。PPI内服の上で施行したEGDにて、SCJ口側5時方向に通常観察でやや発赤調、NBI観察では淡いbrownishな色調を呈する領域を認めた。同部は扁平上皮で覆われていたが、不整なnetwork血管が透見された。またSCJに平行して、その肛門側に約1mm幅の表面構造が不整な領域を認め、同部で腺癌が露出していると診断した。以上より、扁平上皮下を主座とする食道腺癌, 0-IIb, tub, LPM-MMと診断した。治療はフックナイフと糸付きクリップを使用しESDにて偶発症なく一括切除した。最終病理診断は、食道腺癌, 0-IIb, tub1>muc, pT1b (SM2,:750μm、浸潤部muc ), ly0, v0, HM0, VM0, 11 x 9mmで、腫瘍の表層への露出は肛門側のごく一部のみ(1x5mm)であった。大部分が扁平上皮下に主座をおく高分化型の食道腺癌で、病変周囲に食道噴門腺は認められなかった。また、噴門部の粘膜下層に粘液癌の合併を認めた。追加治療として、右開胸開腹食道亜全摘術+噴門側胃切除術+2領域リンパ節郭清を施行し、癌遺残やリンパ節転移は認めなかった。腹部食道に限局性の発赤を認めた場合は、扁平上皮下に透見される異常血管に注目することで、扁平上皮下に存在する腺癌を診断することが可能と考えられた。