日本消化器内視鏡学会甲信越支部

7.食道壁内偽憩室症の1例

新潟大学大学院医歯学総合研究科 消化器内科学分野
坂牧 僚、今井 径卓、上村 顕也、青柳 豊
新潟大学医歯学総合病院 光学医療診療部
小林 正明、水野 研一、竹内 学、成澤 林太郎

 症例は60歳代男性。長期のアルコール多飲・喫煙歴があり、2008年より近医の上部消化管内視鏡検査で食道に多発性の憩室が指摘されていた。2011年5月頃より嚥下困難感が出現し、次第に増悪した。10月下旬に下部食道に狭窄を認めたため、食道癌の疑いにて当院を紹介受診した。食道造影では、胸部食道全体に多発する帽針状、分枝状、架橋状の突出像を認めた。上部消化管内視鏡検査では多発するピンホール状陥凹を認め、胸部下部食道で狭窄し、H-260の通過が困難であった。憩室開口部に白色調物質の付着を認め、カンジダ感染が検出された。狭窄部の生検では炎症所見のみであった。胸部造影CTでは、胸部食道は広範にわたって全周性に壁肥厚を認めた。食道壁内偽憩室症と診断し、狭窄拡張術を行う方針となり、入院待機中の抗真菌薬内服と節酒指導を行った。入院時、狭窄は改善傾向にあり、スコープによる拡張術を行った。外来で節酒を継続し、狭窄症状は改善傾向にある。 食道壁内偽憩室症は食道腺導管が嚢状に拡張したもので,通常の食道憩室とは異なり固有筋層を超えないことより,偽憩室症と呼称されている。食道狭窄は半数以上の症例に合併し、慢性的な傍偽憩室炎による粘膜下組織の線維化が原因と考えられている。また、高頻度に食道カンジダが検出されることから、本症の発生・進展に関与する可能性が示唆されている。 食道カンジダ感染を伴い、典型的な内視鏡像、食道造影像を呈した食道壁内偽憩室症の1例を経験したので、文献的考察を加えて報告する。