日本消化器内視鏡学会甲信越支部

5.経乳頭的膵管ドレナージが奏功した重症膵炎後仮性嚢胞胸腔瘻の一例

新潟市民病院 消化器内科
荒生 祥尚、古川 浩一、佐藤 宗弘、相場 恒男、米山 靖、和栗 暢生、杉村 一仁、五十嵐 健太郎
千葉大学 消化器内科
林 雅博
新潟大学 消化器内科
薛 徹

症例は30歳代男性、飲酒による慢性膵炎急性増悪にて2008年より入退院を繰り返していた。2010年12月腹痛にて外来受診、CT所見より重症膵炎と診断し入院。入院第30病日にて膵炎消退し、一時退院となるも呼吸困難感増悪し、7月再入院。再入院時のCT所見では縦隔偏移を伴う高度の左胸水の出現を認めた。胸腔穿刺では40000IU/dlを超えるアミラーゼが測定された。CT、MRCP所見からは膵、膵仮性嚢胞、左横隔膜と連続する位置関係であり、重症膵炎後発生した仮性嚢胞と胸腔への瘻孔形成が考えられた。胸腔ドレーン留置による難治性の膵液瘻孔と、胸腔内にwall off cystが形成されることを阻止するため膵液漏出の抑制が必要と考えた。そこで、内視鏡的経鼻膵管ドレナージ(以下ENPD)を試みた。膵管造影では主膵管から仮性膿胞への造影剤の流入が確認され、ENPD留置後、嚢胞の縮小、膵液の排液が十分量であることを確認し、呼吸改善のために胸腔ドレーンを留置、呼吸状態は改善を認めた。胸水中のアミラーゼは115と低下し、ENPDを胃内で切断し胸腔ドレーンも抜去した。退院後、膵管チューブステントの定期的な交換を実施し、フォローアップのCTでは胸水の消失と膵仮性嚢胞の退縮が維持されている。急性膵炎後の仮性嚢胞形成と感染は予後に影響し、早期のドレナージが有効との報告もある。一方、経皮的な不用意なドレナージは膵液による難治性の皮膚瘻の合併をきたすことがある。本例のごとく膵管内圧の低減と膵液排出路の確保が必要な場合はENPDの適切な介入をはかることにより良好な結果が得られる場合もあり、示唆に富む症例と考えられ報告する。