日本消化器内視鏡学会甲信越支部

58.便潜血反応陽性を契機に発見された直腸子宮内膜症の一例

長野赤十字病院 消化器内科
藤澤 亨、徳竹 康二郎、宮島 正行、今井 隆二郎、三枝 久能、森 宏光、松田 至晃、和田 秀一、清澤 研道

腸管子宮内膜症は、血便などの消化器症状が月経時に増悪するのが特徴とされているが、まれに無症状で便潜血反応陽性を契機に発見される場合がある。症例は、51歳女性。無症状で検診での便潜血陽性を指摘され、平成23年1月24日に当院消化器内科に受診した。既往歴には、45歳時に子宮筋腫を指摘されている。 来院時血液検査所見では、貧血なく、炎症反応は陰性であった。また、腫瘍マーカーは、CA125が34.0 U/mlと軽度高値であった。受診時の大腸内視鏡所見では、直腸RsからRaにかけて、約半周する立ち上がりが急峻な発赤調の多発乳頭状隆起を認めた。クリスタルバイオレット染色下の拡大観察では、隆起部は1型ピットが主体で、間隔は疎となっており、腫瘤の主座は粘膜下にあると考えられた。NBI拡大観察では、拡張、直線化した血管が観察された。直腸の隆起部からの生検では、明らかな腫瘍性変化を認めず、粘膜の過形成変化のみの所見であった。EUSでは、第3層から第4層を主体とする低エコー腫瘤を認め、粘膜下病変が考えられた。注腸検査では、直腸前壁に限局して乳頭状隆起性病変を認めた。腹部造影CTでは、子宮内膜は著明に肥厚し、直腸前壁と接しているため、婦人科疾患を疑い、婦人科に紹介したところ、子宮腺筋症ならびに子宮内膜増殖症と診断された。このため、直腸生検組織を用いて追加の免疫染色を施行したところ、粘膜筋板様組織に存在する紡錘形細胞の一部に、エストロゲンレセプターとプロゲステロンレセプターがともに陽性の所見があり、明らかな子宮腺は確認できないものの、子宮粘膜の間質が直腸の粘膜筋板に分布している可能性があると考えられ、直腸子宮内膜症が強く疑われた。過多月経を時折認めたため、当院婦人科にて、黄体ホルモン療法を3カ月施行した。治療後の腹部CT所見では、子宮内膜の肥厚は、著明に改善したが、直腸病変は、治療前とほぼ変化がなく、治療抵抗性と考えられた。この際の直腸生検では、両レセプターがともに陽性の子宮内膜腺が確認でき、直腸子宮内膜症と確定診断し、現在、経過観察中である。