日本消化器内視鏡学会甲信越支部

49.Kwashiorkor型栄養障害の一例

長野中央病院 消化器内科
松村 真生子、森 愛、田代 興一、太島 丈洋、田中 忍、小島 英吾

症例は独居で長年の飲酒歴のある54歳の男性. 1年ほど前に失業し, カップラーメンや酒のつまみなどで生活していた.来院前の数日の間は, 食事はほとんどしていなかった. 平成22年11月某日に, 自宅で倒れている所を別居している妹に発見され,救急車にて来院した. 来院時,BMI 18.4と痩せを認め, 意識はJCS II-10, 血圧92/74mmHg, 頭髪は赤色化し, 四肢から顔面にまで及ぶ全身に著明な浮腫と大量の腹水を認めた. 寝返りも出来ない状態であり, 仙尾部にはII度の褥創を認め, 下着は新旧混在した大量の下痢便にて汚染されていた. 採血では貧血、低アルブミン血症, 低脂血症を認め, さらにK1.9mEq/l, Na116mEq/lと著明な電解質異常を来していた.腹部CT検査では肝/脾CT値比-0.17と著明な脂肪肝と, 膵に多発する微小な石灰化を認めた. 臨床所見より重篤な栄養失調症であるKwashiorkor型栄養障害と診断し, 輸血製剤や、アミノ酸製剤の経静脈投与による加療を開始した所, 第4病日より会話が, 第9病日目からは経口摂取が可能となった. Kwashiorkorは栄養障害の中で蛋白欠乏を中心とする病態を示し, 元来糖質主体の食生活をするアフリカ原住民の乳幼児にみられる栄養障害とされていた. その後, 成人においても消化管手術後のblind loopの形成や, 膵外分泌機能障害などによる蛋白質の消化吸収障害が原因となり2次的にKwashiorkor型栄養障害が生じることが報告されている. 本例は不適切な食事摂取を主体として, アルコール多飲に起因する慢性膵炎もその病態を助長した可能性がある.若干の考察を踏まえ報告する.