日本消化器内視鏡学会甲信越支部

48.繰り返す腹痛発作を契機に診断された遺伝性血管性浮腫の一例

信州大学医学部附属病院 消化器内科
中村 麗那、小松 通治、張 淑美、岡村 卓磨、小林 聡、米田 傑、菅 智明、浜野 英明、新倉 則和、田中 榮司

【症例】15歳、女性 【主訴】心窩部痛、嘔吐 【既往歴】13歳:右卵巣茎捻転手術【現病歴】12歳頃より四肢に片側性浮腫を認めることがあったが2-3日で自然に消退していた。14歳になってから心窩部痛を認めるようになり、数日で落ち着くこともあったが、嘔吐により食事摂取困難となったため当院救急外来を受診した。血液検査上炎症反応の上昇はなく、上部消化管内視鏡検査で十二指腸粘膜に浮腫を認めた。生検では明らかな血管炎の所見は認めなかったが、アレルギー性紫斑病を疑われ外来で経過観察する方針となった。半年後に再度心窩部痛が出現し頻回に嘔吐した。腹部CTにて十二指腸に顕著な全周性浮腫を認めた。上部消化管内視鏡検査は前回と同様の所見であり、絶食・補液を行い3-4日で心窩部痛は軽快した。問診上、父親・父方祖母にも原因不明の腹痛・片側性浮腫を認めたことから遺伝性血管性浮腫を疑い、発作時の血清補体関連マーカーを検査したところC4低値、C1インヒビター活性低下、C1定量は正常範囲内であり、遺伝性血管性浮腫(type2)と診断した。【考察】遺伝性血管性浮腫は常染色体優性の遺伝性疾患であり、本態はC1インヒビターの活性低下・欠損による。症状は皮下浮腫・喉頭浮腫・消化器症状と多彩で急性腹症の鑑別疾患にも挙げられている。好発年齢が10歳代と若く、家族歴や浮腫等の病歴の聴取が診断上非常に有用であるが孤発例も報告がある。発作時にしか消化管浮腫等の特徴的な所見を認めず、多くは数日で改善するため診断に難渋することも多い。以上より、消化管に顕著な浮腫を伴う若年者の急性腹症に遭遇した場合、遺伝性血管性浮腫も念頭におくべきと考えられた。