症例は70歳代の男性。平成13年に直腸癌、肝転移と診断され、低位前方切除術と肝動注用リザーバー留置術を施行された。以後、当院外科にて平成19年までフルオロウラシル、レボホリナートによる肝動注を継続された。しかし、徐々に肝転移巣が増大したため、平成21年にエピルビシンによるChemolipipdolization、平成21年と23年にRFAを施行され、平成23年よりカペシタビンによる全身化学療法を開始された。また、平成20年に食道静脈瘤を指摘され、平成23年4月まで3回の内視鏡的食道静脈瘤結紮術を施行された。平成23年6月22日にタール便が出現し、当科に入院となった。上部消化管内視鏡では食道静脈瘤は残存していたが、赤色血栓や白色血栓は認めず、下十二指腸角の肛門側に赤色血栓を伴う静脈瘤を認めた。自然止血されていたため血行動態を把握した後に適切な治療を行う方針とし、内視鏡的止血術は施行しなかった。しかし、同日夜より下血が頻回となり、6単位の輸血を要した。23日のMDCTでは門脈と下大静脈の間に蛇行・拡張した右精巣静脈を介する側副血行路を認め、その一部が十二指腸壁内で静脈瘤を形成していた。十二指腸内腔には漏出した造影剤を認め、十二指腸静脈瘤の破裂と診断した。また、肝部下大静脈は肝転移巣の浸潤により閉塞していた。輸血により循環動態は安定していたため、翌日に待機的にバルーン閉塞下逆行性経静脈的塞栓術(B-RTO)の方針とした。24日の上腸間膜動脈造影門脈相では門脈から分岐する遠肝性側副血行路と十二指腸静脈瘤の一部が造影され、下大静脈から分岐する右精巣静脈のバルーン閉塞下造影では十二指腸静脈瘤の全体像が明らかになった。右精巣静脈より50%ブドウ糖と5%エタノールアミンオレイトによるB-RTOを施行した。同日夜より下血は著減し、24日のCTで十二指腸内腔に造影剤の漏出は認めず、また右精巣静脈のバルーン閉塞下逆行性造影では静脈瘤内の血栓形成が確認された。その後の経過は良好で第13病日に退院した。外来経過観察中であるが、現在まで再出血を認めていない。