日本消化器内視鏡学会甲信越支部

43.臨床的にLynch症候群が疑われた十二指腸癌の1例

佐久総合病院 胃腸科
桃井 環、宮田 佳典、清水 雄大、若槻 俊之、武田 晋一郎、岸埜 高明、國枝 献治、篠原 知明、高橋 亜紀子1)、友利 彰寿1)、小山 恒男1)、大久保 浩毅2)

症例は60歳代女性。既往歴に30歳代で子宮体癌、40歳代で上行結腸癌、50歳代で直腸癌、膀胱癌がある。家族歴として祖母が子宮癌、父が胆嚢癌、妹が40歳代で大腸癌、次男が30歳代で大腸癌のため死亡している。胸焼け、嘔吐を主訴に近医を受診し、EGDで胃内に多量の残渣を認めたため当院紹介受診となった。EGDで十二指腸下行部に全周性の不整な潰瘍性病変を認め、狭窄のためスコープは通過しなかった。潰瘍部からの生検でpoorly differentiated adenocarcinomaと診断された。CTでは十二指腸腫瘍近傍の膵頭部尾側に50mm大のリンパ節腫脹が指摘され、他臓器に明らかな腫瘍を認めなかったことより原発性十二指腸癌と診断した。腫瘍による通過障害を伴っていたため膵頭十二指腸切除を施行し、術中に腫瘍の横行結腸浸潤を認めたため横行結腸を合併切除した。術後経過は良好であり、現在、再発や転移は認めていない。病理診断はpType2, 50×25mm circ, SS, Adenocarcinoma, poorly differentiated(medullary type suspected), lyx, vx, 胆管浸潤あり, pN1 13b.の結果であり、腫瘍周辺の十二指腸固有筋層直下にリンパ球浸潤がみられ、Lynch症候群に特徴的な病理像を呈していた。術後経過は良好であり、現在、再発や転移は認めていない。本症例はアムステルダム診断基準IIを満たしていることから臨床病理学的にLynch症候群と診断し、遺伝子学的解析を専門施設に依頼中である。本症例は十二指腸癌の発症を契機にLynch症候群と診断された。十二指腸癌はLynch症候群の中でも発症頻度の少ない癌であるが、家族歴や既往歴から本症候群を疑う場合は病理学的及び遺伝子学的検索を積極的に進めるべきであると考えられた。