日本消化器内視鏡学会甲信越支部

32.小腸に多発した悪性リンパ腫の化学療法中に穿孔を来し緊急手術を行った一例

独立行政法人国立病院機構まつもと医療センター松本病院 外科
横井 謙太、小池 祥一郎、松村 任泰、中川 幹、荒井 正幸、北村 宏
独立行政法人国立病院機構まつもと医療センター松本病院 内科
仁科 さやか、中澤 英之、松田 賢介、松林 潔、宮林 秀晴、北野 喜良
独立行政法人国立病院機構まつもと医療センター松本病院 検査科
中澤 功

患者は80代女性。2009年9月に左鎖骨上窩、縦隔内、傍大動脈~右傍腸骨動脈周囲、右鼡径部リンパ節のDiffuse large B-cell lymphomaでR-CHOP療法を8コース施行し、CRであった。2010年10月のPETで右上腕骨及び右腸腰筋腹側に集積を認め、12月上旬の38度の発熱の精査にて当院内科に再入院した。リンパ腫再発を疑いリツキシマブを、2011年1月2日よりプレドニン(30mg/日)の投与を開始した。入院経過中の1月3日夕方より心窩部痛を自覚。経過を見ていたが疼痛は腹部全体に拡大。1月4日になり38度の発熱を認めたが、血液検査ではWBC 3390と炎症所見は認めなかった。腹部造影CT検査で著明な腹水貯留と腹腔内遊離ガス像を認め、消化管穿孔の診断にて緊急手術となった。腹腔内には混濁した腹水1650mlと食物残渣を認め、トライツ靱帯より60cm肛門側の空腸に大網の癒着を伴う暗紫色の腫瘤と、その中心に2mm大の穿孔を認めた。その他、空腸・回腸に同様の腫瘤を7か所認め、そのうち2か所は壁が菲薄化して穿孔寸前の状態であった。全腫瘍を含めて3か所の小腸部分切除を行った。病理組織所見では、潰瘍を伴う腫瘍で核小体明瞭な大型異型細胞の高密度・びまん性増殖を認め、CD3陰性、CD5陰性、CD10陰性、CD20陽性であった。初回治療時の組織と類似した所見であり、二次的な小腸への浸潤と考えられた。当科では1996年3月~2011年3月の期間において、消化管穿孔による手術例は65例認めたが、悪性リンパ腫に伴う消化管穿孔例は今回が初めてであった。悪性リンパ腫による消化管穿孔は1995年~2010年の医中誌報告で133例認め、うち化学療法中に発生し緊急手術を行った症例は43例であった。化学療法中に腹痛を認めた場合は消化管穿孔を疑い迅速な対応が必要である。