日本消化器内視鏡学会甲信越支部

28.門脈血栓症を合併した同時性多発肝転移を伴う胃癌の1例

佐久総合病院 外科
長谷川 健、中村 二郎、竹花 卓夫、山本 一博
佐久総合病院 腫瘍内科
宮田 佳典
佐久総合病院 胃腸科
小山 恒男

症例は60歳代男性。発熱と腹部膨満感を主訴に近医受診した。上部消化管内視鏡検査にて胃前庭部後壁に2型腫瘍を認め、精査加療目的に当院紹介となった。発熱は持続しており、CTにて胃癌、多発肝転移のほか、上腸間膜静脈から門脈にかけての広範な静脈血栓を認めた。血液検査ではWBC21,200、CRP22.2と炎症反応は高値であり、またD-dimmerが4.8μg/mlと血栓傾向を示す結果であった。直ちにヘパリンナトリウム、および抗生剤(S/C)を投与開始した。門脈血栓症を合併したStageIV胃癌と診断し、治療方針を検討した。本症例は下肢静脈血栓を認めないが、上腸間膜静脈から門脈にかけての静脈血栓症であり、その原因は担癌患者に併発しやすい深部静脈血栓症と同様の病態であると推測された。よって血栓症は持続し、抗凝固療法は長期間となることが推測された。したがって原発巣からの出血を新たに来たす可能性があり、まず減量手術として幽門側胃切除術、D1郭清を施行した。術後2日目にヘパリンナトリウム投与再開し、術後9日目にワルファリンカリウムへ移行した。PT-INRを1.5から2.0に設定し、術後20日目退院した。術後23日目よりS-1+シスプラチン療法による化学療法を開始した。胃癌の治療効果と門脈血栓の経過について報告する。本例は術式の選択、周術期の抗凝固療法、S-1とワルファリンカリウム併用の注意など、慎重に治療法を決定する必要があったため、報告する。