症例は60 歳台の男性。主訴は吐血。既往歴は水俣病。本年1月に心窩部痛にて来院し、上部消化管内視鏡検査にて胃角部前壁と後壁に胃潰瘍瘢痕を認めたが、その他特に異常を認めなかった。4月下旬に発熱、倦怠感が出現し市販の風邪薬を服用した。その後心窩部痛も出現し、市販の胃薬を服用した。その後解熱したが腹部症状は軽快しなかった。5月中旬にめまい、嘔吐あり、吐物に新鮮血が混入していたため翌日当院を受診した。来院時の血液検査にてHb 6.6 と小球性低色素性の貧血を認め、上部消化管内視鏡検査にて食道と胃に多発する潰瘍を認めて同日入院となった。食道生検組織の免疫学的検索にてHSV-1免疫染色陽性でCMV免疫染色は陰性であった。胃生検組織の免疫学的検索ではHSV-1免疫染色は陰性でCMV染色も陰性 であった。血液検査ではEBウイルス抗体は、抗VCA-IgG抗体 陽性, 抗VCA-IgM 抗体陰性 , 抗EA-DR-IgG 抗体陰性 , 抗EBNA 抗体陰性であり、CMV IgG 陽性、CMV IgM 陰性、CMV pp65抗原(c7-HRP)陰性、ヘリコバクター・ピロリ抗体陽性であった。禁食とし補液とPPIの投与を行ったところ軽快して第13病日に退院した。過去の報告ではHSV-1感染による食道病変は報告されているが胃病変の報告は見られない。本症例では胃に地図状の潰瘍を認めたが、その成因を含めて文献的考察を加えて考察する。