日本消化器内視鏡学会甲信越支部

18.嘔吐刺激で発症し,治癒経過を観察しえた巨大食道壁内血腫の一例

長野市民病院 消化器内科
多田井 敏治、神保 陽子、長屋 匡信、関 亜矢子、須澤 兼一、越知 泰英、原 悦雄、長谷部 修

【症例】70歳代.男性【主訴】胸痛【既往歴】陳旧性心筋梗塞にて抗血小板薬(アスピリン、クロピドグレル)内服中。【現病歴】平成23年4月4日内服薬服用後に食道つかえ感があり、自分で指をいれて嘔吐(PTPの誤嚥はなかった)。その後、激しい胸痛を自覚したため当院へ緊急搬送となった。受診時の胸部Xp,ECGでは異常所見は認めず、少量の吐血があったためMallory-Weiss症候群が疑われ当科入院となった。血液検査では正球性正色素性貧血と血小板減少を認めたが、生化学および凝固系に異常はなかった。上部消化管内視鏡検査では、上部~下部食道に食道壁内血腫を認め、特に中部食道では食道壁の約半周を占める巨大な隆起として認められた。胃内には少量の凝血塊と穹窿部から体下部にかけて壁内血腫がみられ、Mallory-Weiss症候群の所見は認めなった。第2病日に施行した胸部造影CT検査では、上部~下部食道に連続して血腫を認めた。特に中部~下部は食道内腔を閉塞するほどの大きな血腫として描出された。入院後、絶飲食の上TPNにて管理を行った。第3病日より血腫の吸収熱と考えられる38℃台の発熱を認めたが、胸部の違和感は第5病日にはほぼ改善し、第7病日には解熱した。第7病日の胸部造影CT検査では、食道の壁肥厚はほぼ改善しており、壁内血腫は消失していた。上部消化管内視鏡検査でも、血腫は消失しており、上部~下部食道の約半周の上皮が脱落し、粘膜下層が露出していた。その後、食事を開始したが症状の再燃なく第15病日に退院となった。退院後、外来にて経過観察中であるが、4ヶ月後の上部消化管内視鏡検査では粘膜の再生と上皮化を認め、食道狭窄を伴うことなく改善傾向である。【まとめ】今回我々は、嘔吐刺激により発症した巨大食道壁内血腫の一例 を経験した。食道壁内血腫は食道内圧が上昇し、粘膜下の血管が破綻して血腫を形成する病態とされる。胸痛を主訴に来院し、心疾患が否定された際は本疾患も鑑別診断の一つとして念頭に置き、診断をすすめる必要があると考えられた。