日本消化器内視鏡学会甲信越支部

17.塩酸ドキシサイクリンによると考えられた全周性中部食道潰瘍の一例

済生会新潟第二病院 消化器内科
長島 藍子、本間 照、阿部 寛幸、廣瀬 奏恵、窪田 智之、冨樫 忠之、関 慶一、石川 達、吉田 俊明

食道潰瘍の原因は消化性、機械性、感染性、薬剤性、その他(クローン病、ベーチェット病)が挙げられる。詳細な病歴聴取により原因を同定できた稀な症例を経験したので若干の考察を含めて報告する。

症例:10歳代男性。主訴:胸骨後部痛・発熱。既往歴:特記事項なし。

現病歴:尋常性ざ瘡に対し他医からビブラマイシン(塩酸ドキシサイクリン)を処方され内服中であった。入院4日前、嚥下時に胸骨後部痛を自覚。近医受診し、胸部レントゲン上は異常所見なかったが発熱あり、抗生物質と消炎鎮痛剤、制酸剤を処方された。症状は軽快せず、近医で上部消化管内視鏡検査(EGD)を施行され、食道潰瘍を認め当科紹介入院となった。心窩部に軽度圧痛を認める以外身体所見は異常なし。血液検査所見ではCRP値の軽度上昇がみられた。胸腹部CTで中部食道に造影効果を伴う壁肥厚を認めた。他に有意な所見はなかった。入院2日目にEGD施行。切歯列から25-29cmの中部食道にほぼ全周性の潰瘍を認めた。潰瘍辺縁は口側、肛側とも比較的境界明瞭で、潰瘍底は凹凸不整、汚い白苔が付着していた。縦長に、発赤した粘膜が数条残存していた。生検組織は潰瘍底、潰瘍辺縁から採取され、いずれも非特異的炎症所見のみであり、肉芽腫や核内封入体などは認めなかった。入院後、絶食補液管理にて速やかに症状は軽快し、摂食可能となり入院6日目に退院した。退院1週後の食道造影では狭窄なく、潰瘍面も指摘できなかった。退院2ヶ月後のEGDでは、食道狭窄は認めず、粘膜面にも明らかな異常を指摘できなかった。

中部食道潰瘍は食道潰瘍の5%と稀であり、食道裂孔ヘルニアと関連性はなく、薬剤性や原因不明例が多い。本例は下部食道にヘルニアや逆流性食道炎を認めず、また各種検査で感染症は否定的であった。尋常性ざ瘡に対し塩酸ドキシサイクリンを内服していたが、同剤は強酸性のため、不十分な飲水量で内服すると食道に停滞し潰瘍を形成することがある。就寝前に飲水せずに薬だけ飲み込んだ経験があり、同剤による薬剤性潰瘍であったと推察された。