日本消化器内視鏡学会甲信越支部

5.EUS-FNAにて確定診断し得た膵リンパ上皮嚢胞(Lymphoepithelial cyst:LEC)の一例

山梨大学 第一内科
石田 泰章、高野 伸一、深澤 光晴、門倉 信、高橋 英、進藤 浩子、佐藤 公、榎本 信幸

症例は70歳男性。2010年5月に急性虫垂炎にて虫垂切除術を実施。その際のCT検査にて膵尾部に多房性嚢胞性病変を指摘され、精査加療目的に当科紹介入院となった。血液検査ではCA19-9の軽度上昇を認めた。腹部超音波検査では膵尾部より突出する境界明瞭、均一な内部エコー有する5cm大の腫瘤を認めた。CTでは分葉状腫瘤であり、水に近い低濃度で内部に後期相で淡く造影される隔壁様構造がみられた。MRIではT1WIで高信号、T1WI脂肪抑制では抑制されず、T2WIでは不均一な高信号を呈した。MRCPでは腫瘤は描出されず、膵管との交通も認めなかった。超音波内視鏡検査では比較的均一な充実様病変であり、ソナゾイド造影にて充実様部分は全く造影効果を示さず、腫瘤辺縁、内部の隔壁構造のみが染影し、内部は非腫瘍性物質と考えられた。ERPでは膵管に異常所見を認めなかった。以上の画像所見から隔壁を有する嚢胞性病変であり、非腫瘍性の充実性物質で充満していることから膵リンパ上皮嚢胞(LEC)を第一に疑い、病理学的確診目的でEUS-FNAを施行した。胃体上部後壁より22G穿刺針にて3回穿刺吸引し黄白色粘調な嚢胞液を採取した。病理学的には無核化した扁平上皮細胞や変性したケラチン物質を認め、LECと確定診断した。経過観察を行っているが、約1年間変化を認めていない。膵リンパ上皮嚢胞(Lymphoepithelial cyst: LEC)は発生時に鰓裂が迷入したとされる先天性真性嚢胞であり、膵実質から突出した形態をとることが多い。良性疾患であり自覚症状もないことから、診断が確定すれば経過観察が可能であるが、術前診断が難しく切除後に確定診断される例が少なくない。本例では画像所見でLECに特徴的な所見を捉えEUS-FNAにより病理学的に確定診断し得たため過剰な治療を避けることができたと考えられる。嚢胞性腫瘍に対するFNAは播種の危険性があり適応には慎重な検討が必要であるが画像検査にてmalignant potentialを有する嚢胞性腫瘍が否定された場合LECの確定診断を目的としたEUS‐FNAは有用と考えられる。