日本消化器内視鏡学会甲信越支部

3.内視鏡的に切除し得たBrunner腺癌の一例

長野市民病院 消化器内科
面高 俊和、長屋 匡信、原 悦雄、神保 陽子、多田井敏治、関 亜矢子、須澤 兼一、越知 泰英、長谷部 修、
長野市民病院 病理診断科
大月 総明、保坂 典子

【症例】80歳代、男性。平成23年2月に下血があり、近医を受診した。上部消化管内視鏡検査を施行したところ、十二指腸に粘膜下腫瘍様の隆起性病変を認めた。生検にて高分化型腺癌と診断され、精査加療目的に当院紹介となった。当院での上部消化管内視鏡検査では、十二指腸下行部後壁側のVater乳頭よりやや口側に、10mm程度の、頂部に陥凹を伴う粘膜下腫瘤様隆起性病変を認めた。陥凹部には微細顆粒状変化を認め、十二指腸原発癌としては奇異な形態を示していた。超音波内視鏡検査では、病変は比較的均一な低エコーから等エコーを示しており、内部には一部無エコー域を認めた。第2層から第3層を主座としており、明らかな第3層の断裂は認めなかった。以上より、Brunner腺由来の早期十二指腸癌と判断した。手術も検討したが、高齢であり、基礎疾患があることから、十分なインフォームドコンセントの上、内視鏡的粘膜切除術(EMR)を施行した。グリセオールを局注後、スネアーを用いて一括切除した。切除病理所見では、Brunner腺領域に、Brunner腺過形成/腺腫/高分化型腺癌が併存している像を認めた。免疫染色では、MUC5AC(+)、MUC6(+)、MUC2(-)、CD10(-)であり、Brunner腺由来の癌に矛盾しない所見であった。Ki-67は異型の強い部分で陽性を示していた。切除断端に一部正常のBrunner腺の露出を認めたものの、腫瘍と思われる部分は完全に切除されていると判断した。2ヶ月の経過観察目的の上部消化管内視鏡検査でも、遺残病変を認めなかった。現在も当院外来通院中である。【考按】本症例は、Brunner腺由来の癌に特徴的と思われる肉眼所見を呈していた。病理所見ではBrunner腺より連続した多段階発育を認めており、免疫染色でMUC5AC(+)、MUC6(+)、MUC2(-)、CD10(-)であり、Brunner腺由来の高分化型腺癌と診断した。本邦におけるBrunner腺由来の癌の報告は少なく、貴重な症例と考えられ、文献的考察を加えて報告する。