日本消化器内視鏡学会甲信越支部

2.早期胃癌による胃重積の一例

新潟県立新発田病院 内科
水澤 健、夏井 正明、岡 宏充、中村 隆人、瀧澤 一休、坪井 清孝、青木 洋平、松澤 純、渡邉 雅史

症例は70歳代の男性。高血圧のため降圧剤を内服していた。平成23年5月12日より右季肋部痛が出現、持続するため16日に近医を受診した。腹部エコーとCT検査で急性胆嚢炎が疑われたため同日当科に紹介された。他覚的には発熱と右季肋部から側腹部にかけての強い圧痛と反跳痛を認め、血液検査ではWBC 17000/μl、CRP 20.5 mg/dlと炎症反応が著明に上昇していた。他院で施行された腹部エコーとCTでは胆嚢は著明な壁肥厚と腫大を呈していたが、結石は認めなかった。胆嚢炎の他に胃体部から下十二指腸角まで脱出した腫瘤を認めた。リンパ節腫大は認めなかった。無石胆嚢炎および何らかの腫瘍性病変による胃重積と診断し、外科に相談した後に緊急手術となった。著しく腫大した胆嚢には大網が癒着し、混濁した腹水を認めた。重積部を直視下に観察することはできなかったが、十二指腸に先進部と思われる腫瘤を触知した。まず、胆嚢摘出術が施行されたが、摘出された胆嚢内にやはり結石は認めなかった。胆嚢摘出術終了後、腫瘤は十二指腸ではなく胃体中部で触知され、胃重積は解除されていた。術中内視鏡では胃体中部大弯側に発赤調でカリフラワー状の大きな隆起性病変を認めた。表面にくずれがないことから深達度Mの0-I型早期胃癌の可能性が高いと判断し、胃体上部を切開した後に病変を胃外に誘導し、局所切除術を行った。術後経過は良好で、第12病日に退院となった。病理診断はadenocarcinoma, tub1, sm2, ly0, v0であった。リンパ節郭清を含む追加手術を提示したが、御本人が希望されなかったため外来経過観察となった。現在まで腹部CTで明らかな再発を認めていない。胃重積は比較的まれな疾患であり、若干の文献的考察を加えて報告する。