【背景】咽頭癌に対する治療は、嚥下・呼吸そして何よりも発声という機能に関する問題があり、その治療においては根治と共に機能温存に配慮する必要がある。一方消化管癌に対するESD(endoscopic submucosal dissection)はほぼ確立し、中下咽頭領域にも応用されている。そこで今回は当科で内視鏡治療を行った中下咽頭癌症例について検討した。【対象・方法】2007年2月-2011年6月までにESDを含む内視鏡切除を行った10症例11病変(男性10名、平均年齢68.7歳)を対象とし、その発見契機、内視鏡所見、治療成績について検討した。なお内視鏡治療の適応は深達度SEP(上皮下浸潤)かつCTやエコーでリンパ節転移陰性(clinical N0)とした。【結果】発見契機はすべて他消化管腫瘍の治療前あるいは治療歴を有する症例でのスクリーニング上部内視鏡検査であった。色調は淡い発赤:7、強い発赤:3、白色:1。肉眼型は0-IIa:3、0-IIb:7、0-IIa+IIc:1。主な存在部位は左梨状陥凹:2、右梨状陥凹:4、中咽頭後壁:3、右披裂部:2。NBI観察では明瞭なbrownish area(BA)を6、淡いBAを5に認め、全例拡大観察では拡張・蛇行・口径不同・形状不均一を伴う異型血管を認めた。一括完全切除率 100%(11/11)、平均切除径 25.6mm(11-60)、平均腫瘍径 16.mm(2-50)、病理組織学的には深達度EP 7、SEP 4、SEP癌1例においてリンパ管侵襲陽性であった。術中術後の合併症として、一過性声帯浮腫を1例(翌日抜管で対応)、誤嚥性肺炎1例のみであった。治療後の経過観察は半年~1年毎の内視鏡検査に加え、SEP癌では半年毎にCT検査を行っており、観察期間中央値19.5か月(4-55)において原病死は認めず、他病死1例(舌癌再発)を認めた。【結論】咽頭癌の内視鏡所見の特徴は発赤調を呈し、NBIではBAかつ異型血管を認めることであった。しかしこの領域に関しては、まだ治療のガイドラインも決まっておらず、今後症例を重ね病理学的評価・治療成績・予後を検討していくことが重要である。