日本消化器内視鏡学会甲信越支部

70.大腸動静脈奇形に対してクリッピング法を行い著明な改善が得られた一例

長野中央病院 消化器内科
三浦 章寛、小島 英吾、田代 興一、太島 丈洋、松村 真生子

症例は85歳,女性.特記すべき既往歴はなし.2009年12月より呼吸苦を自覚し,2010年1月当院に受診された.血液検査にてHb 4.7g/dl,MCV78.8flと重度の小球性貧血を認めたため精査加療目的で入院となった.フェリチンは9.8ng/mlと低値であり,鉄欠乏性が疑われたが出血のエピソードの自覚はなかった.上部消化管内視鏡検査では異常所見は認めず,下部内視鏡検査では横行結腸に血管拡張性病変を大小2個認め,大きいものは径5mm程の太い血管がミミズ様に怒張,蛇行している部分の表面に細い不整に拡張した血管が約15mmにわたり拡がっている形態を呈していた.怒張血管は拍動もみられ,動脈系の異常も呈していたため内視鏡所見より大腸動静脈奇形(arteriovenous malformation,以下AVM)と診断した.小さい病変は細い不整血管の集簇のみとして捉えられた.大腸AVMからの慢性出血が貧血の原因と考えられ,内視鏡的処置にて怒張した血管の口側および肛門側にそれぞれクリッピングを施行し,血流の遮断を行った.また,小病変に対してはクリップにて楔状に挟み込むようにして血流の遮断を試みた.術後,貧血の増悪はなく2010年4月に内視鏡検査再検したところ,AVMはわずかな発赤を残すのみで改善していた.小病変はクリップが脱落しており,一部病変の残存を認めたためクリッピングを追加した.代表的な大腸の血管性病変にAVMとvascular ectasia(以下VE)がある.AVMは先天性要素が強く,腸管壁全層にわたり動静脈の異常な拡張と吻合を認める病変を指し,比較的若年者に多いとされる.VEは後天性要素が強く,粘膜下層までの静脈の異常を認める病変を指し,心不全など基礎疾患を有する高齢者に多い.内視鏡所見で動脈系の関与を示す拍動性血管がみられればAVMと考えてよいと思われる.VEに対しては凝固法,局注法,クリッピング法などの内視鏡的治療が広く行われているが,AVMに対しては外科的切除や塞栓術が行われるのが一般的であり,クリッピング法単独で治療した報告例はない.今回われわれは大腸AVMに対してクリッピング法を行い,著明な改善がみられた症例を経験したので文献的考察を加えて報告する.