今回我々は食道裂孔ヘルニアによるイレウスのため手術を要した2例を経験したので報告する。【症例1】77歳、女性【既往歴】2008年4月、6月、逆流性食道炎にて他院に入院。同年5月、右腎癌のため他院にて右腎摘出術施行。 【経過】2008年12月繰り返す嘔吐にて来院。腹部CT上、著明な胃拡張を認め精査・加療目的で入院。翌日、ガストログラフィンによる胃透視を施行。十二指腸球部、下行脚が食道裂孔から縦隔内に脱出し通過障害をきたしていた。保存的治療により症状が改善したため食事を再開したが、経口摂取をすると嘔吐を繰り返した。経過観察のため腹部CT再検したところ、著明な胃拡張と十二指腸の縦隔内脱出の所見が変わらず見られたため食道裂孔ヘルニア根治術を施行した。術後経過は良好であった。【症例2】84歳、女性【既往歴】ギランバレー症候群、うつ病【経過】2006年より慢性の便秘のため当院外来通院中であった。2010年7月下腹部痛にて来院。浣腸を施行し帰宅。翌日、下腹部痛が再び出
現し来院。腹部X線上、腸閉塞と診断し入院となる。腹部CTにて縦隔内に胃のガス像とは異なる消化管ガス像を認めた。さらに腹部X線及びCTにて横行結腸の著明な拡張が見られたため注腸造影をしたところ食道裂孔を通して横行結腸左側が縦隔内に脱出していた。食道裂孔ヘルニアによる大腸イレウスと診断し、食道裂孔ヘルニア根治術および噴門形成術を施行した。術後経過は良好であった。【考察】食道裂孔ヘルニアは加齢による横隔食道靭帯の脆弱化が誘因の一つと考えられている。今回の2例は共に高齢者であり、当然食道裂孔ヘルニアをきたしやすい状態であった。さらに腹腔内臓器の支持組織の脆弱化もイレウスの発症に関与したと考えられる。また症例1では既往手術の影響が、症例2では慢性の便秘が誘因になったとも考えられる。