日本消化器内視鏡学会甲信越支部

65.Clostridium difficile感染が難治化に関与したと考えられた中毒性巨大結腸症を呈した潰瘍性大腸炎の1例

済生会新潟第二病院 消化器内科
もたい 陽介、本間 照、関 慶一、窪田 智之、石川 達、樋口 和夫、吉田 俊明、上村 朝輝
済生会新潟第二病院 外科
酒井 靖夫
水原郷病院 内科
内田 守昭
新潟大学 第一病理
味岡 洋一

70歳代女性。3月発熱、食思不振あり近医から感冒薬と抗生剤を処方されたが、血液混じりの下痢となり前医入院となった。左下腹部に圧痛あり。37.5℃。腹部Xpでは異常所見なく、便培養で有意菌は検出されなかった。入院当夜40℃。下部消化管内視鏡検査では直腸に偽憩室様の下掘れ潰瘍が多発していた。介在粘膜は発赤顆粒状であり、UCを疑いペンタサ2gが投与された。CDtoxinA陽性が判明しバンコマイシンも併用となった。下痢発熱は軽減したがCTで横行結腸の径が8cmと拡大し、血圧も低下気味となり、中毒性巨大結腸症が疑われ当院転院となった。プレドニゾロン30mg、ペンタサ3gが開始された、腹部膨満、排便困難感あり、径肛門的にネラトン挿入し大腸の排ガスと暗褐色の泥状便が排出された。腹痛は強くなく、血圧低下も改善していたため、中毒性巨大結腸症ではあるが内科的に治療を継続することとなった。LVFX500mg、MNZ500mg、大建中湯が追加された。血便は消失したが内視鏡検査ではS状結腸〜横行結腸に治癒傾向のない下掘れ潰瘍が見られた。その後、腹痛血便が再燃8〜10行/日となった。サイトメガロウイルスCMVアンチゲネミア陽性となったため、ガンシクロビルを投与した。しかし血便は改善せず低蛋白も進行し、外科治療の適応と判断し、大腸亜全摘上行結腸人工肛門増設術を施行した。術後は症状安定し、低栄養も徐々に改善した。外科切除標本ではUl-3〜4の深い潰瘍を認め、裂孔形成様の場所もあり、炎症性細胞浸潤は潰瘍底〜周囲に限局していた。介在粘膜の再生上皮は成熟し胚細胞粘液減少は殆ど見られなかった。CMV封入体は確認できなかった。潰瘍性大腸炎と診断された。本例で観察された下掘れ潰瘍は、潰瘍性大腸炎の難治性を内視鏡的に示す一つの指標とされている。また、難治化の要因としてClostridium difficileやCMV感染(再活性化)が挙げられているが、本例でも両者の関連が示された。重症UCに対する治療として免疫抑制は必須であるがこれに伴う二次感染の対策・予防への配慮も重要と思われた。