日本消化器内視鏡学会甲信越支部

63.再生不良性貧血に合併した潰瘍性大腸炎の1例

信州大学医学部附属病院 消化器外科
山本 高照、石曾根 聡、関野 康、佐近 雅宏、鈴木 彰、小出 直彦、宮川 眞一
信州大学医学部附属病院 消化器内科
長屋 匡信
信州大学医学部附属病院 中央検査部病理
遠藤 真紀、下條 久志

要旨 再生不良性貧血治療中に併発した潰瘍性大腸炎の一例を経験したので報告する.症例は,55歳男性.主訴は下血.5年前,人間ドックにて血小板減少を指摘,精査にて再生不良性貧血と診断されシクロスポリンにて治療中であった.また翌年頻回の下血のため大腸内視鏡検査を施行、直腸から連続性に全結腸に渡り発赤,粗造な粘膜を認め,全大腸型潰瘍性大腸炎と診断された.5-ASA製剤の内服を開始し症状は改善したが,その後徐々に血小板減少が進行し,5-ASA製剤による血小板減少が疑われたため内服を中止し経過観察していた.2年前から再び下血を認めたためPSL 5-10mg/日の内服を開始,以降入退院を繰り返した.経過中サイトメガロウイルス腸炎を発症したため一時ステロイドを中止した.内科的治療にて潰瘍性大腸炎のコントロールが難しく手術目的に当科紹介となった.紹介時血液検査ではWBC 1500/μ, RBC 2.38×106/μ, Plt 2.8×104/μと汎血球減少を認めた.術前の下部消化管内視鏡検査ではMatts Grade 4の潰瘍性大腸炎であった.大腸全摘および回腸ストーマ造設術を施行した.術中に血小板の輸血を施行し,術後の免疫抑制療法はシクロスポリンの持続点滴を行った.術後経過は良好であり,術後第13病日に退院となった.病理検査では潰瘍性大腸炎に矛盾しない所見であり,免疫染色にて一部の粘膜にサイトメガロウイルス陽性の細胞を認めた.現在,回腸ストーマにて排便管理は良好であり,QOLが保たれている.再生不良性貧血に関してはシクロスポリン,蛋白同化ホルモンの内服治療中である.本例は再生不良性貧血に対して免疫抑制治療中に潰瘍性大腸炎を併発した稀な症例であり,文献的考察を加えて報告する。