症例は62歳男性。腹痛、嘔吐がありイレウスで入院し、直腸癌と診断された。理学的所見で貧血があり、腹部は全体に膨満し、直腸診で可動性不良な腫瘍を触知した。CTでは遠隔転移はないが骨盤内を占拠する径11.4cm大の巨大腫瘤を認め、膀胱浸潤が疑われた。大腸内視鏡検査ではRbとRSにskipして腫瘍があり、どちらかの癌が壁外から浸潤していることが予想された。RSで狭窄が強く、内視鏡は通過不能で経肛門イレウス管も挿入できなかった。生検はtub1で、臨床所見は直腸癌cSI(膀胱)cN0cH0cP0cM0 cStageIIと診断した。腹部症状が悪化したため、入院翌日に緊急手術を行った。開腹所見で、骨盤内を占める巨大な直腸癌は膀胱へ浸潤し可動性が無く、根治切除不能と判断した。sSI(膀胱)sNXsH0sP0sM0 sStageIIの診断でS状結腸人工肛門造設術を施行した。1回目手術後XELOXを施行、有害事象はGrade1の食欲不振のみであった。3コース終了時のCTで腫瘍径は6.1cmに縮小(−46.1%)し、膀胱浸潤もなく、化学療法の効果判定はPRであった。cSScN0cH0cP0cM0 cStageIIと診断し、4コース終了後3週間あけて2回目手術を施行した。術中所見では、Ra主体の腫瘍がRSと癒着していたが可動性はあり、膀胱への浸潤は無いものの周囲腹膜と癒着しており、sSI(腹膜)sN0sH0sP0sM0 sStageIIと判定した。手術はS状結腸人工肛門部を切除範囲に含む低位前方切除術、D2 (prxD3)、膀胱周囲脂肪組織とともに腹膜合併切除、一時的回腸人工肛門造設術を施行し、R0、根治度Aとなった。切除標本の病理組織学的検査は癌全体が肉芽腫様組織や線維化組織に置き換わって消失しており、化学療法の効果はGrade 3、pCRとなった。術後経過は良好で第10病日に退院した。術後補助化学療法は本人が希望せず、現在外来経過観察中で今後回腸人工肛門閉鎖術を行う予定である。XELOXはFOLFOXやFOLFIRIと効果は同等であるがポートが不要であるため、術前化学療法に適している。切除不能局所進行癌の場合、奏功すれば根治切除かつ臓器温存可能となり、pCRが得られれば予後改善が期待される場合もあり、積極的に試みてよい治療と思われた。