日本消化器内視鏡学会甲信越支部

58.診断にマルチスライスCTが有用であったS状結腸異物穿孔の1例

NHOまつもと医療センター 松本病院 外科
松村 任泰、小池 祥一郎、横井 謙太、中川 幹、荒井 正幸、北村 宏
NHOまつもと医療センター 松本病院 消化器内科
古田 清、宮林 秀晴、松林 潔、小林 正和、松田 賢介

高齢化社会に伴い,PTP(press through package)誤飲の報告は増加している.今回我々は,術前にマルチスライスCTにて異物を確認し,消化管異物穿孔の診断に至った1例を経験したので報告する.症例は87歳男性で認知症があり,タフマックEカプセル,メバロチン,バイアスピリン,ガスターを服用していた.2010年8月腹痛を主訴に近医を受診し,筋性防御,反跳痛を認め急性虫垂炎疑いで当院紹介となった.身体所見では,腹痛あり,下腹部中心に筋性防御を認め,体温37.1℃,血圧141/92mmHg,脈拍90bpm,白血球5,120/μl,CRP1.17mg/dlであった.腹部単純X線では異常を指摘できず,腹部CTでS状結腸に壁肥厚と炎症像を認め,腔内に台形の透亮像とdensityの高い直線構造があり人工異物と考えられた.更に気管支条件にて内部にカプセル構造を認めた.また上腹部から腸間膜内に小さな気泡を多数認めた.以上よりPTP誤飲によるS状結腸異物穿孔と診断し,同日緊急手術を施行した.手術所見では,腹腔内汚染は軽微であり,S状結腸に2mm程の穿孔を2ヶ所認めた.穿孔部の腸管温存は困難と考え,S状結腸部分切除,端々吻合にて再建,洗浄ドレナージを行った.摘出されたPTPはタフマックEカプセル(3×1.5cm)であった.術後にエンドトキシン吸着療法を施行し,回復は順調であった.PTPによる消化管穿孔は平均年齢約80歳と高齢で,下部消化管に多く,基本的には手術による摘出が必要である.早期診断ならびに予防が重要であるが,高齢者,認知症例の場合,診断は容易ではない.PTPはX線透過性であり,診断にはマルチスライスCTが有用であった.