日本消化器内視鏡学会甲信越支部

56.内視鏡的整復術後に経肛門的イレウス管挿入が末期癌患者のQOLに貢献できたS状結腸軸捻転症の1例

町立辰野総合病院 外科
柘植 善明

S状結腸軸捻転症を起こした末期癌の超高齢男性に対して、大腸内視鏡で整復後、経肛門的にイレウス管を挿入して手術を回避し、QOLに貢献できた症例を経験したので報告する。症例は89歳の男性で主訴は腹痛です。既往歴は2005年12月に胃癌+胆石症で手術を受けており、2008年5月と2009年5月にS状結腸軸捻転症を起こしている。現病歴は2010年4月に膵癌、多発性肝転移と診断され加療中であった。5月8日の朝から腹痛が出現し、坐剤で経過をみていたが、痛みが増強したため、5月9日に救急車で搬送されてきた。現症で、腹部は全体に膨隆し、下腹部に圧痛を認めたが、腹膜刺激症状はなかった。腹部レ線で、多量のガス像を伴う小腸・大腸の拡張とcoffee bean signを認めた。以上の所見よりS状結腸軸捻転による腸閉塞症と考え、緊急大腸内視鏡検査を施行した。肛門より約25cm口側に狭窄部を認め、慎重に内視鏡をすすめた。閉塞部の口側結腸は著明に拡張し多量の便汁を認めたが粘膜面は正常であり、脾彎曲まで挿入した。ところで患者は超高齢者でしかも膵癌の末期状態であり、どうしても手術を回避したいと考え、腸管の減圧を試みる目的で経肛門的にイレウス管を挿入した。内視鏡の鉗子孔からガイドワイヤーを挿入し、それに沿ってイレウス管を脾彎曲まで挿入した。これでイレウス管より多量の排液・排ガスを認め、腹部レ線でもガス像が消失しているのを確認し、5月11日にイレウス管を抜去して無事に退院した。その後、S状結腸軸捻転を起こさず、しかし膵癌が悪化したため8月に死亡した。