日本消化器内視鏡学会甲信越支部

55.大腸穿孔を繰り返した1例

地方独立行政法人長野県立病院機構木曽病院 外科
小山 佳紀、秋田 眞吾、河西 秀、久米田 茂喜
地方独立行政法人長野県立病院機構木曽病院 内科
福澤 慎哉、岡村 卓磨、北原 桂、飯嶌 章博
信州大学医学部 病理学教室
下条 久志

症例は69歳女性。皮膚筋炎(プレドニゾロン10mg/日投与)、糖尿病、胸腰椎圧迫骨折(NSAID服用癧あり)にて治療中。2008年12月、下行結腸癌に対し手術施行(SM、N0、stage I)。術後、左腸腰筋外側(腸管吻合部脇)に気泡を認め、経時的に増大傾向を呈した為、2009年7月に下部消化管内視鏡検査を施行。吻合部に浅い多発潰瘍を認めた。2009年8月、(下部消化管内視鏡検査施行後11日目)消化管(吻合部)穿孔・後腹膜膿瘍を発症し緊急手術(穿孔部腸管切除、下行結腸瘻造設術)を施行。病理学的検索では吻合部に生じた潰瘍の穿孔を支持する所見であったが原因の同定は困難であった。2010年5月、人工肛門閉鎖(下行結腸直腸端々吻合)術施行。術直後はステロイドカバーを行ない、その後、一旦ステロイドの離脱を試みたが、CPKの上昇を来たしたためプレドニンを再開、増量(25mg/日)を要した。摂食・排便に関しては特に問題なく経過していた。2010年7月下旬に左側腹部痛を来たし受診。2009年8月に発症した膿瘍と同部位と考えられる位置に後腹膜膿瘍を認めた。局所麻酔下に切開・排膿・ドレナージを施行。ドレーンからは消化管内容物の流出を認めた。注腸検査にて膿瘍腔に面する左側大腸(実際には横行結腸:吻合部とは別)から造影剤の漏出を認め、大腸穿孔の診断で、2010年8月、大腸穿孔部閉鎖術・横行結腸漏造設術を施行。径約1cmの、壁に明らかな不整を認めない穿孔であった。(2010年5月の人工肛門閉鎖術施行の前に大腸の検索を行なっているが、特に憩室は認めておらず)本症例の2回の大腸穿孔の原因として1.吻合部感染の関与2.ステロイドの関与3.糖尿病の関与4.NSAIDの関与5.膠原病の関与−これらの一部、あるいは、いくつかが複合した可能性を考える。ステロイドの長期投与、糖尿病、NSAID投与、膠原病等により、易感染性、潰瘍形成、創傷治癒障害、血流障害等のリスクがある場合、潰瘍形成〜穿孔までの病変の急速な増悪の可能性や、数ヶ月という中〜長期的な経過での穿孔の可能性が示唆され注意を要すると考える。