アメーバー赤痢は現在比較的まれな疾患である。診断が確定すれば抗生剤にて改善されるが、炎症性腸疾患と誤診してステロイド治療などをされると状態が悪化する。今回我々はアメーバー赤痢の2症例を経験したので報告する。症例1 24歳の男性、2008年6月下旬から感冒様症状あるも下痢・下血なし。近医受診され投薬加療されるも軽快せず。7月上旬に外来受診。既往は特記すべきことなし。海外渡航なし。また便潜血陽性であり7月下旬に下部消化管内視鏡検査にて回盲部に多発潰瘍あり。生検にてアメーバー検出させず。しかし血清アメーバー抗体陽性であり内服加療開始され軽快された。症例2 40才の女性、2010年7月下旬に右下腹部痛あり、下痢・下血なし。CT検査にて上行結腸に浮腫性変化と周囲のリンパ節腫脹を認め入院した。既往は尿崩症にて通院。海外渡航なし。8月中旬に下部消化管内視鏡検査にて上行結腸に多発潰瘍あり。生検にてアメーバー検出され、内服加療開始にて軽快された。アメーバー赤痢はEntamoeba histolyticaを病原体とする大腸感染症である。多くは不顕性感染(発症率10%)に終わり保有者として経過するが、発症すれば下痢症状をはじめ状態が悪化した場合、腸穿孔や肝膿瘍を合併して重篤な経過をとることがある。診断方法は糞便検査(陽性率13-54%)、下部消化管内視鏡での生検組織による虫体確認(陽性率50-70%)、血清中抗アメーバー抗体価(陽性率85-97%)であり、治療はメトロニダゾールが著効する。鑑別診断では炎症性腸疾患などが挙げられるが診断に誤り、ステロイド治療などをされると状態が悪化し、致命的な状態になる可能性がある。稀な疾患であるが下部消化管での潰瘍性疾患では、本症も念頭においた腸疾患を考慮する必要があると考える。