【はじめに】炎症性腸疾患の腸管外合併症として血栓や塞栓が起こることは広く認められており、その原因として炎症性腸疾患の活動期にみられる凝固機能亢進状態の関与が推定されている。今回、前方切除、回盲部切除後のクローン病再燃に門脈血栓を認め、Danaparoid sodium(1250単位×2 /day )2週間の点滴で血栓溶解に成功した1例を経験したので報告する。
【症例】症例は31歳男性。2004年にクローン病と診断され直腸(Rs)回腸に婁孔を認めたために前方切除、回盲部切除を施行され術後当科でフォローされていた。2010年7月に高度貧血(Hgb 5g/dl)と著明な下腿浮腫を認め再入院した。入院時腹部症状はなかったが腹部レントゲンでは上行結腸の拡張と液体貯留を認めた。禁食・補液・フェジン3A点滴・エレンタール内服・ペンタサ錠3000mg内服にて経過観察した。保存的療法ではあまり改善はみられず、下部消化管内視鏡にて横行結腸中部が全周性に狭窄し、浅い潰瘍・広範な瘢痕・炎症性ポリープを認めクローン病の再燃と判断した。入院6日目の腹部CTでは終末回腸と横行結腸の壁肥厚他、門脈血栓を認めた。血栓に対しダナパロイドナトリウム(1250単位×2 /day)の点滴を行ったところ2週間の経過で血栓は縮小し消失した。血栓消失後、各種凝固・線溶系酵素を測定したところプロテインSの活性が51%と低値を認めたが、他に異常所見はみられなかった。
【考察】臨床的な研究では炎症性腸疾患患者の1-6%に静脈血栓が起こると報告されているが、門脈血栓は少なく、門脈血栓は臨床症状に乏しいため気づかれにくい。門脈血栓に対し、Danaparoid sodiumは投与法が簡便であり、出血などの副作用が起きにくいので、有用な治療法になりうると考えられる。