日本消化器内視鏡学会甲信越支部

41.腎細胞癌膵多発転移の1例

長野中央病院 消化器内科
田代 興一、小島 英吾、三浦 章寛、太島 丈洋、松村 真生子
長野中央病院 外科
吉澤 明彦
長野中央病院 病理科
柳沢 信生

症例は76歳女性.主訴は腹部のしこり.1991年右腎癌に対し,右腎全摘術を受けた.2009年11月に左季肋部にしこりがあるのを自覚した.近医受診しCT検査を行ったところ,膵腫瘤を認め,精査加療目的にて当院紹介となった.受診時,左季肋部に弾性硬な約4cmの結節を触知した.血液検査では内分泌値も含め異常を認めなかった.単純超音波検査では膵体部に30 mm,膵尾部に40 mmの低エコー腫瘤を認めた.腫瘤の境界は明瞭で,内部は不均一なエコーを示した.Sonazoid造影超音波検査では,腹部大動脈とほぼ同時に、結節全体が同時に一気に非常に強く造影された.また造影後期相でも造影効果の残存を認めた.いずれの相でも腫瘍中心部に造影効果を認めない領域があった.造影CTでは早期相で強濃染され,後期相では造影剤のwash outを認めた.腹腔動脈からの血管造影では腫瘤内に動脈相で強く造影される拡張,蛇行した血管を認めた.さらに一気に腫瘍全体が非常に強く造影された.これは1991年に施行された右腎動脈造影による腎癌の所見と同じであった.MRIでは腫瘍はT1強調画像で低信号,T2強調画像で高信号を示し,内部にT1,T2強調画像ともに高信号を示す領域を認め,出血や変性壊死が示唆された.ERPでは,主膵管が体尾部で頭側に変移していたが,不整狭窄や途絶は認めなかった.以上より,腎癌膵転移,鑑別診断としては神経内分泌腫瘍を挙げ,2010年1月に膵体尾部切除を行った.膵体部に3.5×3cm、尾部に4×4.5cmの腫瘤を認め,中心部に出血壊死を認めた.腫瘤は血管性間質に囲まれた大小の胞巣状組織から構成されており,細胞は多角形から立方状で、類円形核と淡明な胞体をもち,腎細胞癌膵多発転移と診断された.著明な多血性を有する膵腫瘤の鑑別として神経内分泌腫瘍と腎癌膵転移が挙げられ,両者の画像診断は容易でない.本症例では血管造影所見が原発の腎癌と類似しており,この点が鑑別に有用であった可能性があると考えられた.