日本消化器内視鏡学会甲信越支部

38.EST後3年後に診断された粘液産生胆嚢癌の一例

長野市民病院 消化器内科
多田井 敏治、長谷部 修、原 悦雄、越知 泰英、立岩 伸之、須澤 兼一、関 亜矢子
長野市民病院 消化器外科
林 賢、成本 壮一
長野市民病院 放射線科
今井 迅
長野市民病院 病理診断科
保坂 典子

症例は85歳女性。H19年に総胆管結石症、胆嚢結石症にてEST、切石術を施行されている。胆のう摘出術は希望にて行っていない。H22年7月に38度台の発熱・食欲不振を認めたため近医を受診、腹部CTにて総胆管の拡張を指摘されたため当院消化器内科に紹介となった。血液検査では肝胆道系酵素の上昇、腹部超音波検査では胆嚢腫大と胆嚢内腔にデブリス・総胆管の著明な拡張、腹部造影CTでは胆嚢底部に不均一な壁肥厚が認められた。造影MRI検査では胆管壁が広範囲に造影効果を認め、水平方向への浸潤も疑われた。いずれの検査でも、胆嚢結石・総胆管結石は確認できなかった。ERCPでは主乳頭の開大と粘液の流出・総胆管の拡張を認め、胆嚢・胆管内に粘液の貯留を認めた。IDUSでは総胆管内に胆砂を認めたが、総胆管の明らかな壁肥厚は認めなかった。EUSにて胆嚢壁肥厚(6mm)、広基性の病変を認め胆嚢癌が疑われ、深達度はmと考えられた。胆汁細胞診では、Class3であったが、管腔への粘液産生を伴う腫瘍であり、粘液産生胆嚢癌が疑われた。MRIより総胆管への表層進展も否定できないため、拡大胆嚢摘出術+リンパ節郭清+胆管切除術を施行した。粘液産生胆嚢癌は現行の胆道癌取扱い規約には明確な定義はなされていない。臨床的に管腔への粘液産生を伴う腫瘍で、産生された多量の粘液により胆嚢炎や胆道系の閉塞症状で発症することが多い。本症例では、明らかな閉塞症状は認めなかったが発熱を7月に繰り返し、肝胆道系酵素の上昇を認めた。また、診断には胆嚢壁の隆起性病変に加えて、ERCPにて胆嚢・胆管内のゼリー状の粘液塊の確認が有用とされている。本症例ではCT、ERCPにて両方が確認できたため、診断は容易であった。今回我々は、粘液産生胆嚢癌の一例を経験したため、文献的考察を加え報告する。