日本消化器内視鏡学会甲信越支部

37.膵嚢胞の経過観察中に出現をみた小膵癌の1例

新潟大学医歯学総合病院 臨床研修センター
山本 正彦
新潟大学医歯学総合病院 光学医療診療部
塩路 和彦、小林 正明、成澤 林太郎
新潟大学大学院医歯学総合研究科 消化器内科学分野
高野 明人、阿部 聡司、橋本 哲、冨樫 忠之、五十嵐 正人、青柳 豊
新潟大学大学院医歯学総合研究科 消化器・一般外科学分野
高野 可赴、黒崎 功
新潟大学大学院医歯学総合研究科 分子・診断病理学分野
滝澤 一泰、味岡 洋一

近年膵癌のリスクファクターとして小嚢胞や軽度の主膵管拡張の存在が知られており、これらを有する症例を注意深く経過観察することで、小さな膵癌の発見に寄与できると考えられている。今回我々は膵嚢胞の経過観察が小膵癌の発見契機となり、病変の観察にコンベックス型EUSが有用であった一例を経験したので報告する。 症例は70歳代の男性。2008年スクリーニングの腹部USにて膵嚢胞を指摘。腹部CTにて膵頭部に7mm、膵尾部に12mmの小嚢胞を指摘された。EUSでは嚢胞内に結節を認めず、また嚢胞の十二指腸乳頭側に貯留嚢胞を来すような充実性腫瘤も認めなかった。ERCPでは膵管開口部の軽度開大と粘液の排出を認めた。主膵管と嚢胞の交通も確認でき、分枝型IPMNと診断した。 膵液細胞診ではClass IVが検出されたためERCPの再検を予定したが同意が得られず、腫瘍マーカーが陰性で、腹部dynamic CT、EUSでも腫瘤が指摘できないこともあり経過観察となった。冠動脈ステント留置後でMRI、MRCPが施行できず、軽度の腎障害もあり、頻回の造影CTが行いづらい状況であり、年1回の造影CTと適宜EUS、血液検査で経過観察が行われた。 ERCP施行2年後の腹部CTにて体尾部膵管の拡張を指摘。ERPでは頭体移行部で主膵管は途絶し、同部のブラッシング細胞診にてClass Vと診断された。ラジアル型EUSでは腫瘤描出はできなかったが、コンベック型EUSを用いて観察すると、頭体移行部にφ15mm大の充実性腫瘍を認めた。IPMNの経過中に発生した通常型膵癌の診断で当院外科にて幽門輪温存膵頭十二指腸切除が施行された。 病理学的にはφ21mmの浸潤性膵管癌とその周囲には過形成から上皮内癌と思われる上皮が広がっていた。 初回ERCP像を再度確認したが、浸潤癌の発生した部位に膵管の異常は指摘できなかった。 術前のラジアル型EUSでも病変を指摘できておらず、技術的な問題もあるが、頭体移行部の観察が不十分な症例ではコンベックス型EUSも組み合わせて経過観察していく必要もあると考えられた。