日本消化器内視鏡学会甲信越支部

29.A型劇症肝炎の1例

長野赤十字病院 消化器内科
田中 景子、宮島 正行、今井 隆二郎、三枝 久能、藤沢 亨、森 宏光、松田 至晃、和田 秀一、清澤 研道

【症例】50歳代男性。【主訴】意識障害、黄疸。【既往歴】特記すべきことなし。【現病歴】2010年4月中旬に感冒様症状が出現した。下旬から39℃台の発熱があり近医を受診し、高度の肝機障害(ALT 9000IU/L以上・・・・)を認め前医に入院した。入院第3病日より意識状態の悪化があり、入院第4病日に当院へ転院した。【入院時現症】肝性脳症2度。体温36.2℃。眼球結膜黄染、胸部聴診異常なし、腹部触診にて右鎖骨中線上に肝を1横指触知。血液検査:TP 5.8g/dl、Alb 3.1g/dl、AST 471IU/l、ALT 2930IU/l、LDH 318IU/l、T.Bil 7.6mg/dl、D.Bil 6.2mg/dl、NH3 122μg/dl、PT 36%。腹部CTでは肝萎縮を認めなかった。【入院後経過】肝性脳症2度を認め、血液検査にてPT値が40%以下であり、劇症肝炎と診断した。入院当日より3日間血漿交換を施行したところ、徐々に意識状態は改善し、以後は順調に経過した。本例は、HBs抗原陰性、HCV抗体陰性、IgM-HA抗体陽性であったため、A型急性肝炎の劇症化と考えられた。【考察】A型肝炎は近年減少傾向にあり、感染症情報センター集計によるとここ数年は年間150例ほどの発生数であった。本年は第10週以降の週別報告数が2006年から2009年の平均3.68を大きく超え、第28週までに268例が報告された。このうち劇症肝炎は本例を含め7例であった。近年は高齢者でもHA抗体保有率が低下しており、A型肝炎は稀ならず経験される。本例のように50歳以上の高齢者では劇症化する可能性があり注意が必要である。